課題のフレーミングとスコーピングを行う
学習の目的
この単元を完了すると、次のことができるようになります。
- 課題のフレーミングやスコーピングとそれを使用する状況を定義する。
- 課題のフレーミングがストラテジーデザインプロセスに不可欠である理由を説明する。
- 課題のスコーピングの要素を説明する。
- 課題のフレーミングとスコーピングの計画上の主な考慮事項について説明する。
- 課題のフレーミングにおける一般的なトレードオフと、それに対処するストラテジーについて説明する。
課題のフレーミングとストラテジーデザインプロセスにおけるその重要性
日常生活で私たちは当たり前のごとく課題に直面します。けれども、ストラテジーデザインプロセスでは課題が特別な意味をもちます。この場合の課題は、あなたが作成しようとしているもののユーザーを念頭に置いて解決しようとしている問題で、特にユーザーがどのように考え、感じ、行動するかを考慮します。
優れたソリューションの出発点は常に、ユーザーとそのコンテキストを理解することです。また、優れた課題ステートメントはどれも、説得力のあるニーズが明確に示されており、これがあなたのビジネスやチームにとって重要になります。こうした条件を満たしていれば、お客様やパートナー、関係者、サプライヤー、従業員を第一に考えることができるようになります。また、念頭に置くべき人々が、お客様、パートナー、関係者の顧客であることも少なくありません。問題を解決するときは、まず課題のフレーミングを行います。
課題のフレーミングの時点で、イニシアチブやプロジェクトの成功に向けて共通認識を形成します。解決しようとしている問題の核心を定義し、チームが何を目指しているのかを明確にします。課題のフレーミングでは次のことを行います。
- 課題の解決に必要な時間やスキルなど、スコーピングに必要な情報を示す。
- チームの取り組みを明確にし、方向性を示す。
- プロジェクト内で解決することと、解決に取り組まないことに対する意思決定者やその他の関係者の期待を明確にする (更に、取り組みの範囲について交渉する機会を設ける)。
- プロジェクトの成功に関する共通の定義を確立する。
- 組織にとって価値あることにチームが取り組んでいることを確認する。
課題のフレーミングが適切に行われると、ユーザーへの共感が生まれ、問題の解決案を見出して検証する道が開けます。フレーミングプロセスの出発点は、次のような質問をすることです。
- 現状の何が問題なのか?
- このソリューションの影響を受ける立場にあるのは誰か?
- どのような成果が望まれるか?
- 隣接領域のうち、この取り組みから除外すべきものはどれか?
上記の質問 (と各自の具体的な課題に特有の質問) に答えていくうちに、問題の解決に必要なものが明確になっていきます。ただし、どの課題にもフレーミングが必要なわけではありません。次のような場合に課題のフレーミングを行います。
- 曖昧または複雑な問題に取り組んでいる場合
- 既存の業務や商品/サービスからの大幅な変更を推し進める場合
- 新しいチームが目標、ロール、期待に対する共通認識を形成する場合
- 資金調達やリーダーシップの賛同を要する新しいイニシアチブを提案する場合
- 永続的な優位性 (将来の成長と価値の基盤を築きながら、現在のお客様に価値をもたらすストラテジー) の確立を試みる場合
- 問題解決の適任者が誰かを判断しようとする場合 (例: UX の問題か、組織デザインの問題か、ストラテジーの問題か、IT の問題かなど)。
他方、次のような場合は課題のフレーミングが不要です。
- 問題解決の道筋が明確な場合
- 既存の商品/サービスを大幅に進化させる変更である場合
- チームが効果的かつ効率的に取り組み、予測可能な間隔で測定可能な向上を遂げている場合
- チームが短期的な問題に対処しており、次のリリースに重点的に取り組む必要がある場合
課題のフレーミングが完了したら、続いて時間、チーム、成果物の点からプロジェクトのスコーピングを行います。
Cloud Kicks の課題
Cloud Kicks は、カリフォルニア州オークランドを拠点とする従業員 200 名未満のスニーカー企業で、サステナビリティ、イノベーション、ダイバーシティ、質の高いカスタマーサービスを重要な価値としています。Cloud Kicks のスニーカーは、有名人やプロスポーツ選手、IT 専門家など、スタイリッシュで高級感があり、履き心地の良いフットウェアを求める西海岸のインフルエンサーの間で 注目を集めています。コロナ禍の大半の企業と同様に、Cloud Kicks もサプライチェーンの遅延に悩まされています。CEO は、ブランドロイヤルティや評判が損なわれるのではないかと懸念しています。サプライチェーンの問題は先行き不透明で複雑であることから、ストラテジーデザイナーがこの課題の解決にあたるプロジェクトを主導することになりました。
CEO のビジョンを汲んだうえで課題の明確なフレーミングを行うために、ストラテジーデザイナーは CEO の懸念を明らかにすることから着手します。問題の根本原因はサプライチェーンの混乱ですが、どのようなソリューションでも最終的には Cloud Kicks のユーザーとカスタマーサービスチームに影響が及びます。そのため、このプロジェクトでは、スニーカーをお客様に届けるバリューチェーン全体を対象にする必要があります。
課題のスコーピング
課題のフレーミングが問題解決に向けた提起であるのに対し、スコーピングプロセスはプロジェクトをどのように構成していくかというロジスティクス計画です。スコーピングは、解決案を見出して検証できるように意図的にデザインされている必要があります。スコーピングにより、フレーミングされた課題の解決に必要な時間や人員、その他のリソースを計画して準備し、管理できるようになり、誰が何をどのように遂行するのか、どのような成果が期待されるのかなどの概要が示されます。
したがって、プロジェクトで何を対象とし、何を対象外とするのかをチームが把握しやすくなります。どのソリューション、あるいはどの種のソリューションが一番有効かはまだわからないため、スコーピングは、ユーザーがソリューションをどのようにとらえ、実践し、テストし、改良するかを理解するためのチーム、時間、リソースを確保するということになります。そのため、大幅な進化を求めているのか、大幅な変更を求めているのかを検討します。
Cloud Kicks のストラテジーデザイナーは、課題をどのように解決するか計画し始めたときに、次の 5 つの主な要素を使用してプロセスをスコーピングしました。各要素によってプロジェクトが大きく左右される可能性があるため、それぞれ慎重に検討しました。
- ニーズを把握する。
- ニーズ: どのような問題を解決しようとしているのか?
- 対象者: ソリューションの対象者は誰か?
- コンテキスト: この問題の既知の重要な要素は何か?
- デザインの機会を明確にする。
- 課題ステートメント: デザインの機会はどのようなものか?
- 価値: このことがなぜ重要なのか?
- 想定: この機会についてどのような直観を抱いているか? 具体的に説明します。このデザインを機能させるために、ユーザーに求められることは何か? このプロジェクトに導いた仮説で、検証すべきものは何か?
- 目標: ソリューションによってビジネス、お客様、社会にどのような成果がもたらされるか?
- 問題解決のアプローチを確立する。
- デザイン: この課題の解決にどのようなストラテジーデザインプロセスを使用するか?
- 根拠: 課題にこのアプローチが適している理由は?
- チーム: 問題を解決するチームにどのような専門知識や人生経験が必要か?
- 外部の関係者: 解決案を見出して検証するためにどのようなユーザーが必要か?
- プロジェクト計画を作成する。
- 時間: どのくらいの期間が必要か?
- マイルストーン: 進捗状況を共有し、作業を確認すべき重要なマイルストーンは何か?
- リソース: 成功させるにはどのくらいの予算とリソースが必要か?
- 成功と潜在的なリスクの測定基準を特定する。
- 成功: 成功したかどうかをどのような方法で確認するか?
- 追跡: ユーザー、ビジネス、社会のどの評価指標を使用して測定できるか?
- リスク: どのようなリスクまたは成り行きを検討すべきか?
計画上の主な考慮事項
課題のフレーミングとスコーピングのプロセスでは、計画上の次の考慮事項に留意します。
フレーミング
- 課題のフレーミングに制約を設けると、デザインのニーズや機会 (問題、対象者、コンテキスト、問題ステートメント) を明確に理解できるようになります。
- アプローチを確立して計画を作成すれば、ソリューションの幅が広がり、解決案を見出して検証する機会を拡大できます。
スコーピング
- プロジェクトの前にスコープを広げておくと、人間が中心となるプロセスで効果が最大のソリューションを見つけることができます。
- スコープを狭めると、広範な検証が阻まれます。プロセスを通して、意見を集約する主なマイルストーン (チームがオプションを絞り込み、作業の次のフェーズで何を優先するかを決定する時点) で常にスコープを絞ることができます。
一般的なトレードオフに対処する
課題のフレーミングプロセスでは、トレードオフ (何かを得るために別のものを諦めること) は避けられません。特に、問題解決に向けて異分野が協力する場合には珍しいことではありません。トリプル制約という一般的なトレードオフでは、スコープ (何を対象とするか)、割り当てる時間、コスト (プロジェクト予算) のバランスを図ります。
例として、プロジェクトチームについて考えてみましょう。通常、5 人のチームは 3 人のチームよりも短期間で多くのことを達成できますが、チームの人数が増えれば経済的な影響が生じます。チームが少人数であれば予算を抑えることができますが、チームの規模を縮小すると、達成される作業のスコープがトレードオフになる可能性があります。
ストラテジーデザイナーの役割は、何を犠牲にするかではなく、どのように妥協するか判断することです。トレードオフが生じたときは、何ができるかについて現実的になり、必要なものと欲しいものの本質を見極めます。その際は次の点を考慮します。
- 作業をどの程度スリム化できるか?
- プロジェクトの中で、主なチームメンバーが必要なのはどの時点か?
- ユーザーとのタッチポイントが複数あるか? 1 つにできないか?
「そんなことはできない」と考えるのではなく、極力「こうすればできる」と考えるようにします。関係者に、「予算がつくのなら、ご要望どおりにすることができます」「プロジェクトの期間を延長できれば ... できます」と伝えるほうが好ましいものと思われます。要望に対して「できない」と言うのではなく、「できる」と言うためには何が必要かを検討します。そうすれば、関係者があなたについて、要望を阻む妨害者とみなすのではなく、要望を実現させようとしてくれていると感謝します。
また、適切な一連のトレードオフを適切な人々の前で明らかにすることも重要です。たとえば、スコープの縮小について話し合うときは、ストラテジーデザイナーからではなく、関係者から提案したほうが受け入れられやすくなります。何かに制限を設けたり、何かが不可能である事情を説明したりするときは、常に関係者から話してもらいます。こうした説明から、新たに極めて重要なことを学ぶ可能性もあります。
デザイン上の課題のフレーミングやスコーピングがなぜこれほど重要なのでしょうか? 次の単元では、課題を解決する最も効果的な方法の 1 つである、「How Might We (私たちが実施可能な方法は?)」(HMW) ステートメントについて詳しく説明します。