成功を定義する
学習の目的
この単元を完了すると、次のことができるようになります。
- 課題のフレーミングとスコーピングで成功を定義することの重要性を説明する。
- ビジネス、お客様、社会の視点から成功を評価する一般的な方法を説明する。
- 目標設定のベストプラクティスについて説明する。
成功を定義すべき理由
企業は競合他社の先を行くために、優位性を生み出すさまざまな方法に投資しています。ストラテジーデザイナーは、こうした優位性を生み出す特異な立場にあります。ただし、各自のプロジェクトが顧客価値、ビジネスの収益、社会へのインパクトにどのような影響を及ぼすか理解する必要があります。各自の取り組みによって意図した影響がもたらされているかどうかを理解するためには、その取り組みを観察し、最終的に測定できるようになる必要があります。
イニシアチブの価値を評価するごく一般的な方法は、重要業績評価指標 (KPI) とも呼ばれる成功指標を使用して、会社にとってイニシアチブを一番重要なものに結び付けることです。成功指標は、進捗状況を測定し、プロジェクトによってどの程度の優位性が生み出されているかを示す定量的な手段です。
けれども、ストラテジーを定義している段階では、まだデータを収集する指標がありません。データには、たとえごく最近であっても、常に過去のパフォーマンスが反映されるためです。アイデアやソリューションがまだ構築されていなければ、収集するパフォーマンスデータがありません。それでも、成功に向けた道を進んでいるかどうかを評価する手段が必要です。
こうした初期の段階で実行できることは次のとおりです。
- 目標に結び付ける: 課題のフレーミングに、会社が達成したい目標が反映され、組織やお客様にとって重要な取り組みが優先されていることを確認します。HMW に盛り込んだ成果から、成功を測定する適切な方法が示唆されます。
- ビジネス目標をデザインの影響に落とし込む: 機能とビジネス目標を結び付けることができれば、望ましい影響がもたらされていることを認識できます。たとえば、既存のお客様のロイヤルティを高めることが目標である場合、デザインしたストラテジーやエクスペリエンスでそれを可能にする方法を検証します。お客様がお気に入りの商品にタグを付けたり、最近購入した商品を共有したりできるようにすることは可能ですか? 訪問のたびに、アプリケーションのパーソナライズの度合いを高めることはできますか? タスクの完了後にお客様からフィードバックを取り付けるために、ミニ投票を組み込むことは可能ですか?
- ビジネスへの影響という観点から各自の取り組みを評価できるフィードバックを収集する: プロトタイピングの段階、特に商品やサービスのコンセプトが固まった時点で、必ずそのコンセプトから望ましい成果がもたらされることを方向づけ、実証する証拠を収集します。コンセプトからビジネス成果をもたらすためには、お客様を満足させる必要があります。つまり、収集したフィードバックからお客様のニーズを満たしたことが判明すれば、ビジネスの影響を促進できると確信できます。コンセプトからこうした成果がもたらされたであろう理由を把握できそうな意見を収集し、プロトタイプを反復するごとに効果が高まるように工夫します。
- 将来の評価指標のドラフトを作成する: ビジネス目標からデザインの影響が示唆されるのと同様に、デザインする機能からも成功指標が示唆されます。たとえば、1 か月のセッション数でエンゲージメントを定義する場合、特定のユーザーセグメントで「お気に入りに追加」した商品に関する通知を追加すると、1 か月のセッション数が増加するかどうか判断できるものと思われます。増加した場合は、お気に入りボタン (と通知) によってエンゲージメントが向上するかどうかを組織で判断するよう提案することが考えられます。
成功を評価する一般的な方法
ここで重要な点は、各自のプロジェクトがビジネスやお客様、更には社会全般に及ぼす影響を検討することです。では、成功を評価する特に重要な方法を見てみましょう。
ビジネスの成功
ストラテジープロジェクトは、ビジネス目標があってこそ成り立つことが少なくありません。こうした大局的な目標を定義するのはストラテジーデザイナーの役目ではなく、組織のビジネスリーダーによって定義されます。以下は、ストラテジープロジェクトを推進する一般的なビジネス目標です。
- 成長目標: 売上/コンバージョン、訪問/チェックアウト、ユーザー/顧客などの数または率の特定の増加。採用も一般的な成長目標の一種です。
- 拡大目標: 既存の対象顧客への新商品の提供、または新規対象者の獲得。新規対象者は地域、人口統計情報、行動によって定義されることがあり、それぞれ独自の考慮事項があります。
- 効率目標: 既存のビジネス投資を効率的に活用する方法。たとえば、カスタマーサービスへの問い合わせ件数を減らしたり、効率性の高いビジネスプロセスを作成したりする場合です。
- 顧客満足度目標: お客様の満足度の向上に伴うリピート購入や友人への推奨の増大。エンゲージメント、ロイヤルティ、センチメントの向上などがこの例に該当します。
イノベーションの取り組みで考慮すべき重要な点は、一夜で成功を収めることはほとんどないということです。新興企業が利益を出すまで平均 4 ~ 5 年かかり、既存の企業の新商品でも、業界やその他の多くの要因によっては同じくらい時間がかかることがあります。
採用の現実的な目標を設定し、早い段階でセンチメント評価指標に着目することが将来の成功の最適な目安になります。新商品が設計されて構築され、市場に投入されるまでの間に、マーケティングや人材などへの投資の必要性に対する見通しを立てます。
お客様の成功
ストラテジーデザイナーはまず、望ましさの観点からソリューションにアプローチします。お客様が望む商品やサービスを生み出すことができなければ、成功できないためです。ストラテジーデザイナーであるあなたには、常にお客様のニーズを中心に据えて業務にあたる責任があり、お客様の成功の測定があなたの成功を評価する主な手段になります。
ネットプロモータースコア (NPS)、顧客維持率、生涯価値などの評価指標がお客様の成功の大まかな指標になることもありますが、どれも測定に時間がかかるため、成功または失敗の指標としては後手に回ることになります。また、そのプロジェクトの単独の取り組みが可視化されないため、各自の取り組みがどのくらいの影響をもたらしているのかを知ることができません。
まだ実践されていない新生のストラテジーやコンセプトについては、お客様の成功を測るために、特定のプロジェクトの望ましさを定義した方法で、その望ましさを評価する必要があります。ジョブステートメントを作成済みの場合は、望ましい成果が明確に定義されているため、適切な出発点になります。まだ作成していない場合は、HMW とそこに明示されているお客様中心の成果を確認し、お客様の成功の定義に変換して、フィードバックを収集できるようにします。プロトタイピングから質的なデータと量的なデータの両方を収集すれば、現状を適切に把握することができます。
たとえば、ロイヤルティに関するプロジェクトの場合、商品を既存の日常業務やワークフローに統合する可能性についてお客様の意見を収集することが考えられます。エンゲージメントや採用に関するプロジェクトでは、プロトタイピングの段階で、人々が商品の使用に乗り気であることを示す兆候を見出します。プロトタイピングに費やす時間の長短によっては、ユーザーのニーズを検証する程度のデータまたは兆候しか得られないことがあります。
デザインした内容に基づいて、立ち上げ後の評価指標も作成します。ロイヤルティの指標は再利用状況、エンゲージメントの指標は訪問時に商品に費やした時間などにすることが考えられます。
社会的な成功
商品やサービスが個人的な用途で設計されたものでも、家族やコミュニティ、更には社会全体に波及効果をもたらすことを私たちは知っています。組織の持続的な優位性を築くためには、新しいストラテジー、商品、サービスを作成するときに、社会への影響を念頭に置いておくことが重要です。2019 年、180 人を超える CEO が、お客様、従業員、サプライヤー、コミュニティ、株主など、すべての関係者にメリットがある方法で企業を統率することを確約しました。これはステークホルダー資本主義の一形態で、私たちはこのトレンドを歓迎しています。
企業が環境・社会・ガバナンス (ESG) の評価指標に着目すれば、関係者だけでなく、社会全体のニーズも考慮するようになり、長期的な価値を確保できます。ストラテジーデザイナーがこうした評価指標を認識していれば、ビジネスやお客様の成功目標と同様に、デザインで目指す目標として ESG の評価指標を組み入れることができます。では、ESG の一般的な評価指標を見てみましょう。
地球
- 気候変動
- 自然の喪失
- 淡水資源の利用可能性
人類
- 尊厳と平等
- 健康とウェルビーイング
- 未来につながるスキル
繁栄
- 雇用と富の創出
- より良い商品とサービスを目指すイノベーション
- コミュニティと社会の活力
目標設定のベストプラクティス
達成可能な目標を立てる最適な方法の 1 つが、SMARTE フレームワークです。SMARTE は、Specific (具体的)、Measurable (測定可能)、Achievable (達成可能)、Relevant (関連性が高い)、Time-bound (期限付き)、Ethical (倫理的) を表します。Salesforce でも、この人気の高い SMART フレームワークを取り入れています。デザイナーは SMARTE フレームワークを使用して、意図を定義し、発想を促し、取り組みを評価できます。この SMARTE フレームワークは、打ち出したビジョンに沿った目標達成を実現するうえで役立ちます。
また、倫理と説明責任に関して言えば、危害を及ぼすおそれがあるビジネス目標、またはその達成に向けたデザインソリューションによってお客様や広範の社会に危害を及ぼす可能性が高いと思われる過度に強気な目標を目にしたときに、異議を唱えることは全員の責任です。
たとえば、多くの企業がユーザーエンゲージメントの向上に関する目標を掲げています。もっともです。お客様が企業にエンゲージすればするほど、購入する可能性が高くなるためです。けれども、恒常的なエンゲージメントを促進するデジタル商品によって、不健康な行動や、場合によっては依存症を引き起こすおそれがあることを私たちは目にしてきました。
別の例として、企業が操作的なデザイン (ユーザーがそのオプションや影響を理解していれば選択しなかったであろうことを巧妙に実行させるインターフェース) を利用して、収益化に結び付く行動をそそのかすことや、評価指標を人為的に水増しして強引な目標を達成可能にすることがあります。こうした行為によって組織とお客様間の信用が損なわれ、ブランドの評判が傷つけられることから、ビジネスはその成功を近視眼的にしかとらえていないことになります。これはビジネスの賢明なやり方ではありません。
かつては、企業が意図せず有害な影響を引き起こすこともあると信じられていたかもしれませんが、今やそれは通用しません。強引な目標から望ましくない結果となった例を挙げればきりがありません。私たちには、倫理的な観点からその目標とアイデアの両方を精査できる悪影響フレームワークというものがあります。
ストラテジーデザイナーは、目標を押し戻したり、企業が倫理的な疑問に対処できるようにしたり、危害を招く可能性があるアイデアを変更または取り止めたりすることができる特異な立場にあります。こうした会話が難しいこともありますが、お客様とビジネスの長期的な健全性の両方を守るためには必要なことです。プロジェクトの目標を立てるときは、常に倫理を念頭に置いて検討します。
Cloud Kicks の成功
Cloud Kicks の課題のフレーミングとスコーピングプロセスで、ストラテジーデザイナーがどのようなことを望ましいとするかを定めました。また、担当役員、関係者、その他の指導的パートナーとの会話に基づいて、目標、結果、成果物をリストしたプロジェクト概要を作成しました。
最終的な課題ステートメントは、「私たちがサプライチェーンの混乱の中でお客様をファンに変えることが可能な方法は?」というものになりました。
このプロジェクトの主なビジネス成果は効率性で、カスタマーサービスへの電話件数とメール件数の減少によって測定されます。具体的に、どのようにしてお客様をファンに変え、お客様の成功をどのように測定するかは、プロジェクトチームに一任されました。
プロジェクトを、サステナビリティとダイバーシティという企業価値に沿ったものにするために、次のことが決定されました。
- サステナビリティ要件を収集するためのリサーチセッション 1 回。サステナビリティチームに発案セッションとコンセプトレビューへの参加を依頼し、サステナビリティの観点からストラテジーとその遂行の両方に関するフィードバックを依頼する。
- 拡張チームの 60% を一般に疎外されている集団のメンバーで構成することへのコミットメントと、リサーチ、共創、プロトタイプのフィードバックセッションにお客様を募る場合のダイバーシティへのコミットメント
ストラテジーデザインの課題の解決は、段階的なプロセスです。課題をフレーミングしてスコーピングしたら、効果的な「私たちが実施可能な方法は?」ステートメントを作成して、多様性の高いプロジェクトチームを編成し、SMARTE 目標を設定してから、成功を明確に定義すれば、課題を解決する強固な基盤が築かれます。次のモジュールでは、このプロジェクトを始動して、リサーチを開始します。
リソース
- Trailhead: 価値に基づくデザイン
- Trailhead: サステナブルデザインのベストプラクティス
- Trailhead: 倫理バイデザイン
- 外部リンク: How Soon Should a Startup Be Profitable (新興企業が収益を生み出すべき時期)
- 外部リンク: Business Thinking for Designers (デザイナーのビジネス思考)
- 外部リンク: Business Roundtable Redefines the Purpose of a Corporation to Promote ‘An Economy That Serves All Americans’ (Business Roundtable が「すべての米国人に資する経済」を促進する企業の目的を再定義)
- 外部リンク: The Digital Ethics Compass (デジタル倫理の羅針盤)
- 外部リンク: What Is Stakeholder Capitalism? (ステークホルダー資本主義とは?)
- 外部リンク: How to Write SMART Goals (SMART 目標の作成方法)