エージェントのユースケースを特定する
学習の目的
この単元を完了すると、次のことができるようになります。
- AI エージェントを構築する効果的な計画の構成要素を挙げる。
- 自律型 AI の適切なユースケースの条件について説明する。
- Agentforce の自律型 AI のユースケースを定義する。
Agentforce: 簡単なおさらい
Agentforce があれば、自律型 AI エージェントを Salesforce Platform にリリースし、24 時間体制で従業員やお客様をサポートするエージェントレイヤーを作成できます。使い慣れたすべての機能を引き続き使用できますが、エージェントの導入により、従来の機能を膨大なスケールで最大限活用できるようになります。Agentforce は、AI エージェントを作成するためのツールセットと、セールス、サービス、マーケティングなどにわたるカスタマイズ可能なユースケースのライブラリを備えています。こうしたエージェントは、ビジネスを理解し、データを分析し、判断を下し、自然言語で会話し、マルチステップのタスクを自律的に実行します。
この Trailhead バッジを受講している方は、AI エージェントの実装に関心があるのではないかと思います。ここでまず、Coral Cloud Resorts をご紹介します。このリゾートがエージェントを使用して、ゲストが素晴らしいバケーションを体験できるようにするところを見ていきましょう。
Coral Cloud のご紹介
Coral Cloud Resorts は世界有数の観光地でホテル事業を展開するホスピタリティ企業です。ビジネステクノロジー部門の責任者である Nora Alami は、Trailhead で Agentforce をいろいろ試しており、自律型エージェントをすばやく簡単に立ち上げられることに感心しています。
Nora は Agentforce に大きな期待を寄せ、Coral Cloud がこのテクノロジーを導入することを熱望しています。また、AI エージェントを実際に操作してそのしくみを理解し、アイデアを試行して、AI エージェントがどの程度こなせるか確認することが重要であることも心得ています。同時に、会社の昨今のデジタルトランスフォーメーションは概して、賢明なプランニングが求められることを認識しています。
エージェントプランニングの構成要素
まさに Nora の言うとおり、エージェントの計画を立てるときは、多角的に検討する必要があります。
- ユースケースの定義と範囲
- ユーザーエクスペリエンス
- データ要件や技術要件
- リスクとガードレール
- ビジネスプロセスとエージェント設計
確かに AI エージェントを 1 週間、あるいは 1 日で構築することも可能ですが、実際には、プロトタイプを作成して反復処理を行いながら、エージェントが実行する作業と組織へのその影響を検討する必要があります。影響を把握していなければ、プロジェクトが取り止めになり、エージェントをリリースできなくなる可能性があります。
AI エージェントに計画的に取り組む
AI エージェントのリリースにおいて計画は極めて重要な部分ですが、一歩下がって全体像を把握することも大切です。Nora は、Coral Cloud のどの AI プロジェクトも、ビジネス価値と責任ある AI の実践を重視する会社全体の AI 計画に即していなければならないことを認識しています。ただし、すべての AI プロジェクトと同様に、Nora が適切なユースケース (FAQ への回答など、実用最小限プロダクト (MVP) としての用途) を意図的に選択すれば、Coral Cloud Resorts で AI のユースケースを確立しながら、メリットをすぐに実感することができます。
組織が計画を定めていない場合は、Trailhead の「AI 計画」バッジを取得することをお勧めします。また、デモセッションを設定し、自らその潜在性を確認して、ユースケースを検討することも一案です。これ以降は、受講者が AI ビジョンの定義、AI 評議会の設置、AI ガバナンスの確立、AI ユースケースの特定、ロードマップの作成というプロセスをすでに認識していると想定しています。
計画を立てる
Coral Cloud は AI 計画を立てる際、まず会計年度の最重要目標を確認し、AI ロードマップを実際のビジネス目標に対応させます。優先順位が最も高い目標は、以下の 2 点です。
- 運用コストを 5% 削減する。
- ゲストの満足度を 15% 向上させる。
この点を念頭に、Coral Cloud の AI 評議会は、Agentforce イニシアティブを開始して、まずカスタマーサービスに関するユースケースを検討することにします。AI サービスエージェントは日常的な幅広い問い合わせやタスクを処理できるため、サービス担当は空いた時間を、個別対応を要する複雑なやり取りに充てることができます。また、ゲストが 24 時間いつでも正確な回答をすぐに得られるようになります。
ユースケースの候補を挙げる
ここから面白くなってきます! まず、Coral Cloud が Agentforce を有効活用できるあらゆる方法をブレインストーミングします。自律型 AI サービスエージェントは組織のどのような作業を遂行できるのでしょうか? AI エージェントが実行できる業務が具体的になったら、自律型 AI のユースケースを考え出します。
自律型 AI のユースケースとは、AI エージェントが従業員、お客様、組織の代わりに目標や「成すべきジョブ」を達成するためのアクションを実行する AI テクノロジーの用途です。
自律型 AI の適切なユースケースの条件
ユースケースの候補を挙げていく中で、自律型 AI の用途として適しているものとそうでないものに気付くことがあります。自律型 AI に適したユースケースかどうかを評価するときは、以下の点を検討します。
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価値: この作業を AI エージェントに任せるのはなぜか? エージェントのほうが迅速または正確か? エクスペリエンスが向上するか?
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作業: AI エージェントが実行する作業を説明できるか? その作業に伴うすべてのビジネスプロセスを完全に把握しているか?
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判断: その作業には、人間の直接的な入力や判断なしで完了できる決定やステップが含まれているか? ポリシー、ルール、制約が明確に定義され、AI エージェントが独力で従うことができるか?
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リスク: AI エージェントは、その作業に適用されるセキュリティ上、法律上、倫理上、規制上の要件に従って動作することが可能か?
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データ: AI が実行する作業にデータが対応しているか?
上記の答えを確定するためには、エージェントに何ができるかきちんと理解している必要があります。Coral Cloud の事例からおわかりのとおり、概して最も簡単に実装する方法は、まずエージェントを構築し、その機能が実装の目標とどの程度合致しているか見極めることです。
ユースケースを定義する
自律型 AI に適したユースケースの要件を理解した Nora は、続いて Coral Cloud の Agentforce ユースケースの候補を 1 つずつ具体化し、最終的に AI 評議会が評価して優先順位を付けられるようにします。前述のとおり、計画プロセスのこの段階で重視すべきことは、テクニカルソリューションではなく、目標です。
成すべきジョブを特定する
最初に、AI エージェントが実行する作業を説明します。多くの組織は、Jobs to Be Done (JTBD: 成すべきジョブ) フレームワークを使用して、エージェントのロールと実行するタスクの概要を示します。作業と期待する成果について綿密に検討します。これは、エージェントが組織、お客様、従業員にどのような影響を及ぼすかを理解する極めて重要なステップです。
以下は、Coral Cloud のサービス向け Agentforce の 4 種類のユースケース候補です。
作業または成すべきジョブ |
タスク |
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一般的な FAQ |
以下の事項に関するお客様の問い合わせに回答する。
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予約管理 |
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体験管理 |
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ロイヤルティプログラム管理 |
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範囲を決定する
AI エージェントに実行してもらう作業を特定した後の次のステップは、適切な作業量を見極めることです。どの程度が適切なのでしょうか? 実用最小限プロダクト (MVP) が、遂行可能な最小限の作業単位になります。ここで極めて重要な点は、実際に稼働させる条件を明確に定義して遵守することです。目標が定まっていなければ、簡単な作業でも成果を上げることが難しくなります。範囲を定めれば、仮説を検証して、価値を実証し、リスクのレベルを管理して、AI ソリューションの拡張計画を立てることができます。
AI エージェントの計画プロセスを進めるうちに、範囲の微調整を要することがあります。たとえば、特定のデータ要件を満たせない場合や、リスクの高い領域がある場合は、範囲を縮小する、あるいは AI エージェントの自律性を低下させるといった決断に迫られることがあります。組織の AI 成熟度が高まるにつれ、範囲や自律度を高めることができます。重要なのは、小規模なユースケースから始め、エージェントの指示と、その指示を完了するために使用するデータの両方を継続的に改良できることです。つまり、リリースのメリットをすぐに確認したら、時間をかけて最大限活用できるようにしていくということです。
では、Coral Cloud が予約管理ユースケースの範囲をどのように定めるのか見てみましょう。MVP バージョンでは、サービスエージェントが予約の詳細を検索することと、旅程または確認書を再送することができます。その他の予約管理タスクはすべてサービス担当にエスカレーションされます。エージェントの後続の 2 つのバージョンで、その機能が徐々に拡張されます。
作業または成すべきジョブ |
範囲 |
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予約管理 |
バージョン 1 (MVP):
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バージョン 2 に追加される機能:
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バージョン 3 に追加される機能:
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ビジネス価値を定義する
AI エージェントが実行する作業の範囲を完全に把握すれば、ユースケースのビジネス価値を見極めることができます。具体的かつ測定可能な目標を設定して、成果に着目します。同時に、思い切ってやってみることも大切です! 多くのビジネスにとって、エージェントがどのような価値をもたらすことができるか正確に把握する最適な方法は、たとえテストエージェントでも、実際に構築して使ってみることです。AI ユースケースのビジネス価値の定義についての詳細は、「AI 計画」を参照してください。
以下は、Coral Cloud の予約管理ユースケースのビジネス価値で、会社の最重要目標と合致しています。
- 通話量を減少させ、ケースデフレクションを増大させる。
- 24 時間体制の迅速なサポートを実施して、カスタマーエクスペリエンスを向上させる。
Agentforce プロジェクトが組織にもたらす価値の算定でサポートが必要な場合は、「Agentforce ROI Calculator (Agentforce ROI 計算ツール)」を参照してください。
データの準備状況を評価する
続いて、データの準備状況を評価します。AI エージェントの機能を最適化するには、ビジネスコンテキストに応じた信頼できる高質のデータが必要です。逆に言うと、データが不十分な場合は、ユースケースにさほど期待できません。
たとえば、Coral Cloud で利用頻度の高いユースケースの 1 つは、AI サービスエージェントを使用してお客様のよくある質問に回答するものです。Nora がざっと調べたところ、ナレッジ記事の多くがまだ AI に対応していないことが判明しました。書式に一貫性がなく、構造化されておらず、情報が古いうえに矛盾しています。さらに、一部の情報が知識ベースではなく、まったく別のシステムに存在するため、その部分の情報が欠落しています。
Nora は、Coral Cloud が自社のデータで対応できるユースケースから始める必要があることを認識しているため、AI 評議会に、組織が AI に対応した知識ベースを最適化できるまで FAQ ユースケースの取り組みを延期するよう提案しました。
AI の実装は必ずしも一度にすべてを行う必要はありません。Nora が調査を進めたところ、Coral Cloud が開催する新しいイベントに関するナレッジ記事が先日更新されたことがわかりました。この記事には、AI エージェントに対応するはるかに高質なデータが記載されています。そこで、イベントに関する FAQ を試行することを提案します。会社が一般的な記事の更新に取り組んでいる間、この FAQ でお客様にエンゲージできるためです。その過程で、Coral Cloud はイベントエージェントの成功例を取り込んで会社のデータを改良し、回答の質を高め、顧客満足度を高めることができます。
ユースケースを評価して優先順位を付ける
数種のユースケースを定義した Coral Cloud では、AI 評議会がプロジェクトの実現可能性と影響を評価して、AI ロードマップに組み込むことができます。
組織に AI 評議会がない場合は、ビジネス部門とテクノロジー部門の関係者が Agentforce のユースケースを評価して承認し、優先順位を付けるようにします。バックログを改良する際に検討すべき事項や、優先順位付けに使用できるフレームワークについての詳細は、「AI 計画」を参照してください。
Coral Cloud は、最初の自律型 AI プロジェクトとして、予約管理ユースケースを実装します。この理由は、影響度が高く、十分なデータが存在し、MVP に適した作業範囲を設定できるためです。次の単元では、組織が新しい AI エージェントの設計方法を検討するところを見ていきます。