樹木が重要である理由について理解する
学習の目的
この単元を完了すると、次のことができるようになります。
- 気候変動への取り組みにおいて、樹木がいかに重要な役割を果たしているかを理解する。
- 樹木が人間の健康と平等に利益をもたらす方法を説明する。
はじめに
気候変動は遠い場所にある脅威ではありません。地球は劇的かつ急速に変化しています。米国航空宇宙局 (NASA) によると、人間の活動がその主な要因となっているそうです。
今日の気候変動危機は、二酸化炭素 (CO2) を中心とする温室効果ガスが大気中に蓄積されていることに起因しています。このような温室効果ガスは熱を閉じ込め、地球の気温を上昇させます。気候科学界では、温室効果ガスの排出削減が大幅に進まなければ、数十年以内に地球の気温が 1.5 度を上回って上昇する可能性があると強く指摘されています。
0.5 度でも大きな違いがあるのですから、今すぐに思い切った措置を取ることが重要です。
地球温暖化による温度上昇が 2 度になると、1.5 度の場合と比較して、世界に対するリスクは劇的に高まります。たとえば、次のようになります。
- 北極海の氷に閉ざされない夏が 1 世紀ごとに 10 倍に増加する
- 2100 年までに 6,000 万人を超える都市の居住者が深刻な干ばつに見舞われる
- 5 年ごとに 170 万人が厳しい熱波にさらされる
気候変動と戦うための方法は 1 つではありません。化石燃料などからの排出を削減し、大気中の炭素を除去する二酸化炭素吸収源を保護、強化する行動を積み重ねていくことが必要です。
大気中の炭素を除去するための最良のツールであり、持続可能な開発の重要な要素である森林を活用しましょう。
森林、気候変動、持続可能な開発
おそらく、樹木からもたらされる最もよく知られているメリットは、大気中の二酸化炭素 (CO2)を吸収してくれる二酸化炭素吸収源としての役割です。光合成の過程で、樹木は太陽光のエネルギーを利用し、空気中からは CO2 を、地中からは水を取り込みます。このエネルギーを利用して幹や枝葉が成長すると、樹木は空気中に酸素を放出します。また、樹木があると、枝や木くずが落ちて分解されるため、周囲の土壌にさらに多くの CO2 を取り込むことができます。以下に、このような樹木の優れた働きに関する事実をいくつか紹介します。
- 地球全体で見ると、1990 年から 2007 年までに森林は年間の化石燃料排出量の 3 分の 1 ほどを除去しています。
- 現在、米国の森林と林産物は化石燃料の燃焼による国内の二酸化炭素排出量の約 15% を取り込んでいます。
- 1 エーカーの成熟した森は、1 年間で最大 9 トンの二酸化炭素 (CO2) を吸収することができます。これは、自動車が 26,000 マイル走行 (年間平均走行距離の 2 倍) したときに発生する CO2 と同じ量です。
- 材木、紙、薪など、商業用や個人で使用するために森林から提供される材料を含む林産物による年間の CO2 貯蓄量は 3 億トンを超えます。
樹木は日々、さらなる恩恵を与えてくれます。涼しい木陰を作り、冬の冷たい風を遮り、生物多様性を向上させ、空気を浄化し、土壌浸食を防ぎ、水をきれいにし、家やコミュニティに優雅さと美しさをもたらしてくれます。面白いことに、既知の動植物種の 80% が森林に生息しており、熱帯林だけでも世界の生物多様性の半数以上を占めています。
森林がなければ、私たち知っている生き物は存在しないかもしれません。森林は世界の人間システムと環境システムと密接に関わっています。ですが、人類文明が誕生して以来、世界の森林のほぼ半分が伐採され、破壊されてきました。その主な理由は増え続ける人口を養うためです。かつて地球の陸地の半分を覆っていた約 6 兆本の樹木は、今では 3 兆本しか残っておらず、毎年 150 億本が依然として失われています。
驚異的な速さで森林破壊が進む中、残された森林の健全性は急速に低下し、森林の生物多様性も速いスピードで失われています。国連の生物多様性に関する報告書によると、現在絶滅の危機に瀕している動植物種は 100 万種にも上り、これは地球上に存在すると推定されている 870 万種のほぼ 11.5% に相当します。種の消失の原因は、第 1 に土地利用の変化と森林破壊、第 2 に種の直接搾取、第 3 に (および急速に拡大している影響) 気候変動です。
森林消失を食い止めることができたらどうなるでしょうか?
1.5 度の目標を達成するために必要な 2030 年までの費用対効果の高い気候変動対策に関しては、最大でその 3 分の 1 を森林再生などの自然に基礎を置いた解決策によって対応できると推定されています。
このような解決策は、人間の健康、経済、生物多様性に次のような多大な利益をもたらすことも可能です。
- 森林は人々の健康と幸福に貢献しています。米国だけでも、樹木は 1,740 万トンの大気汚染物質を吸収し、年間 67 万件の喘息やその他の急性呼吸器症状を予防しています。
- 沿岸生態系内やそれに沿って存在するマングローブなどの森林は、海洋生物の生育場所となり、海洋酸性化の原因となる炭素の貯蔵にも役立ちます。
- 地滑りや洪水などの異常気象事象によるリスクは、森林によって軽減されます。
- ある試算によると、世界中の荒廃した土地や森林破壊された土地を 3 億 5,000 万ヘクタール再生することで、最大 9 兆米ドルの純便益を得られるとされています。その多くは貧しい村落にもたらされ、貧困を軽減できます。この広範に及ぶ便益には水と食料の安全保障、生物多様性の保全、気候の保護など、社会的かつ環境的な利益も含まれており、私たち皆に役立ちます。
- 健全な森林を取り戻すことで、雇用が創出されます。
- 最近の WEF の報告書によると、森林を地球規模で持続的に管理すると、2030 年までに世界全体で 2,300 億ドルのビジネスチャンスと1,600 万人の雇用が創出されることが明らかになっています。
- 樹木は降水をろ過し、地下水と地表水を浄化します。アマゾンの熱帯雨林は、内陸部の 3,000 km以上にわたって空気の湿度を保ち、1 日に 200 億トンもの水を蒸発させています。その熱帯雨林が失われれば、アマゾンは砂漠になってしまいます。
このようなメリットを考えれば、樹木への投資を大幅に増やす必要があることは明らかです。ですが、森林のような自然を基盤とした解決策で期待できる成果を実現するのは容易なことではありません。仮に 1 秒に 1 本のペースで新しい樹木を植えたとしても、100 万本の樹木を植えるには約 11 日かかります。10 億本だと 31 年を要します。1 兆本の樹木を植えるには、1 秒に 1 本のペースで 31,000 年かかります。これは簡単ではありませんが、解決策はあります。
次の単元では、気候変動への幅広い対応の一環として、グローバルな組織が力を合わせてどのように森林の植樹、再生、保全に取り組んでいるかについて学習します。
リソース
- Trailhead: 持続可能な未来の創出
- 外部サイト: Global Biodiversity Is in Crisis, but There Is Hope for Recovery (地球規模の生物多様性は危機に瀕しているが、再生への望みはある)
- 外部サイト: Forest Habitats (森林生息地)
- 外部サイト: NASA Earth Observatory: Global Temperatures (地球の気温)
- 外部サイト: The Urgency of 1.5 °C (1.5 度の緊急性)
- 外部サイト: Forests and Sustainable Development Goals (森林と持続可能な開発目標)
- 外部サイト: 生物多様性と生態系サービスに関する地球規模評価報告書
- 外部レポート: The Future Climate of Amazonia (アマゾン川流域地帯の将来の気候)
- 外部レポート: Restoring Forests and Landscapes (森林と景観の再生)