AI エージェントのリスクを特定して管理する
学習の目的
この単元を完了すると、次のことができるようになります。
- 各自のワークフローでエージェントがデータ、判断、人々に関与する時点を特定する。
- AI エージェントのリスクを軽減するために脅威モデリングを実践する。
始める前に
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脅威モデリングのビジネスワークフロー
脅威モデリングとは、システムがどのように機能するかを確認し、どのような問題が生じる可能性があるかを見極めて、問題が引き起こされる前にそうしたリスクを管理する体系的な手法です。この単元では、脅威モデリングの簡易版を用いて、ビジネスプロセスのどこにエージェントが適合し、どこにリスクが忍び込む余地があるかを追跡します。
コードレベルの脅威モデリングを詳しく見ていく前に、大規模なビジネスワークフローに AI エージェントがどのように適合するかを理解しておくと役立ちます。STRIDE (なりすまし、改ざん、否認、情報漏洩、サービス拒否、権限の昇格の頭文字) は、大半の開発者にとって馴染みのある脅威モデリングのフレームワークで、アプリケーション内の技術的なセキュリティ脅威を特定するために使用されています。ただし、最適な STRIDE 分析でも、エージェントの使用法に起因するリスクをすべて検出できるわけではありません。
開発者とセキュリティプロフェッショナルがビジネスワークフローを理解していれば、脅威モデルの精度が高まります。そうすれば、特に重要なのがどのステップで、エージェントの判断がワークフローの内外にどのような影響を及ぼすかを把握できます。やがて、統合開発環境 (IDE) には現れないリスクに気付き始めます。承認漏れ、サイレントエラー、不明瞭なハンドオフといった問題はコードエディターに示されません。他方、ワークフロー自体をモデル化して調べれば、すぐに表面化します。
脅威モデリングをワークフローレベルで実施すれば、管理が脆弱な部分、エージェントが憶測に頼っている部分、些細な不備がビジネスに影響を及ぼす問題に発展しかねない部分が明らかになります。
では、各自のワークフローをマッピングする前に、次の例を見てみましょう。システムのあらゆる要素が機能しているように見えても、ステップをたった 1 つ見落としたばかりに、プロセス全体が機能しなくなる可能性があることがわかります。
シナリオ: 消えたレポート
各自のワークフローをマッピングする前に、簡単なシナリオで問題を認識しておきましょう。
会社の四半期コンプライアンスレポートが見当たりません。システム上はレポートが生成済みになっていますが、規制当局に送信されていません。情報収集、レビュー、メール送信を担当する自動エージェントは、「すべてのステップを正常に完了した」と主張しています。ワークフローの概要は次のとおりです。
ステップ | アクションの実行者 | 説明 |
|---|---|---|
1. 財務システムからデータの収集 | AI エージェント | 複数のデータベースからデータを取り込みます。 |
2. レポートの生成 | AI エージェント | データをまとめて、レポートの体裁を整えます。 |
3. レポートのレビュー | 人間 | 合計をチェックして承認します。 |
4. レポートのメール送信 | AI エージェント | 最終版を規制当局に送信します。 |
演習
各ステップに目を通し、エージェントが関与している部分を確認して、次の点を自問します。
- レポートが次のステップに進行しなかった可能性があるのはどの時点か (保存されなかった、ハンドオフされなかった、送信されなかった)?
- どのような管理やチェックがあれば、その失敗を早い段階で検出できたと思うか?
- レポートが送信されなかった時点で誰に通知されるべきだったか?
詳しい記述は必要ありません。何が失敗の原因だったと思うか、まずどこを確認すべきだったかを検討します。この演習では、些細な不備 (確認漏れ、所有者が不明瞭) がワークフロー全体に影響を及ぼす様子が示されています。
回答例: 消えたレポート
複数の原因が考えられますが、ここでは可能性が高い原因とその教訓について説明します。
ステップ | 考えられる問題点 | 考えられる防止策 |
|---|---|---|
1. 財務システムからデータの収集 | エージェントがデータ収集ステップを開始していなかったため、ワークフローがレポート作成に進まなかった可能性がある。 | プロセスが開始されたことを確認し、先に進む前に初期のデータ収集が正常に完了したことを確認するトリガーチェックを追加する。 |
2. レポートの生成 | エージェントがレポートを作成したが、正しいフォルダーに保存していなかったか、送信とマークしていなかった。 | レポートが保存され、適切な名前が付けられ、配信準備ができていることを確認する自動チェックを追加する。 |
3. レポートのレビュー | 人間のレビュー担当者がファイルを承認したが、送信アクションがトリガーされたことを確認しなかった。 | 配信が待機中、処理中、完了のいずれであるかを示すレビューチェックリストまたはダッシュボードを追加する。 |
4. レポートのメール送信 | エージェントがメールを送信しようとしたが、アクションに失敗したか、権限が期限切れなのにアラートが発生しなかった。 | 配信確認と通知手順を追加して、レポートが正常に送信されたことをレビュー担当者が把握できるようにする。 |
このシナリオは、実際のワークフローで、チェック漏れ、不明瞭なハンドオフ、障害の未報告といったエージェントのリスクがどのように現れる可能性があるかを示しています。こうした問題は、開発者、システム管理者、サイバーセキュリティプロフェッショナルのほか、ワークフローを設定して管理する担当者にとって特に明白です。こうしたタッチポイントを早目に確認すれば、些細な不備がビジネスに影響を及ぼす障害に発展するのを未然に防ぐことができます。
独自のワークフローで試してみる
続いて、社内のワークフローに同じ視点を適用します。この目的は、エージェントがどこで人々、データ、システムに関与し、リスクが最も発生しやすいのはどの時点かを把握することです。次の 4 つの手順に従ってワークフローをマッピングし、潜在的なリスクポイントを特定して、その対処方法を検討します。
ステップ 1: ワークフローをマッピングする
- まず、エージェントが有効になっているプロセスを 1 つ選択します (カスタマーサポート、スケジュール、オンボーディング)。
- 最初から最後までのステップを特定します。
- 誰あるいは何がプロセスをトリガーし、どのようなデータがそのプロセスを通過し、エージェントがどこに適合するかを記録します。
例: カスタマーサポートのエージェントワークフロー
お客様がリクエスト → エージェントがデータをレビュー → エージェントが応答 → 人間が承認 → システム更新
ステップ 2: やり取りをマークする
- 次に、エージェントがやり取りする時点を確認します。
- 人々 (ユーザー、従業員、お客様)
- データ (エージェントが参照、更新、保存する情報)
- システム (アプリケーション、API、データベース)
- 人々 (ユーザー、従業員、お客様)
- こうしたタッチポイントに着目します。特にリスクが発生しやすいのがこうした時点です。
例: お客様がリクエスト (データ入力) → エージェントがデータをレビュー (API 接続) → エージェントが応答 → 人間が承認 (人間のレビュー ) → システム更新
ステップ 3: 脅威モデリングの視点を適用する
次に、各タッチポイントで次の点を自問します。
- ここでどのような問題が生じる可能性があるか?
- エージェントが誤った判断を下した場合、あるいは対応が早すぎたり遅すぎたりした場合にどうなるか?
- このステップを悪用する可能性があるのは誰または何か?
簡単な表を作成して、最大の問題が生じる可能性がある時点を記録します。以下に簡単な例を示します。
ステップ | 潜在的なリスク | 影響 |
|---|---|---|
お客様のリクエスト | お客様が送信したデータに不備がある | エージェントが誤った応答をする、またはタスクを完了できない |
エージェントのデータレビュー | 過剰な API アクセス | 機密データが漏えいする |
ステップ 4: 対応策を考案する
- 記録した各リスクの対処法を決定します。
- 権限を厳格にする、レビューステップを追加する、エージェントがアクセスできる範囲を制限するなどの方法でリスクを修正します。
- アラート、ログ、定期的なレビューを追加してリスクを監視します。
- さほど影響のないリスクは受け入れ、そのリスクを記録して後で再検討できるようにします。
- 権限を厳格にする、レビューステップを追加する、エージェントがアクセスできる範囲を制限するなどの方法でリスクを修正します。
- 上位 3 つのリスクと、各リスクの具体的な対応策を 1 つ選びます。
リスク分析の例
ステップ | 潜在的なリスク | 回答 | 影響 |
|---|---|---|---|
お客様のリクエスト | お客様が送信したデータに不備がある | 修正: 必須項目または検証チェックを追加して、不完全なリクエストが送信されないようにします。 | エージェントが完全かつ正確な情報を受け取り、正しい応答を示すことができます。 |
エージェントのデータレビュー | 過剰な API アクセス | 監視: エージェントが承認されたシステム外にあるデータにアクセスしようとした場合のアラートを追加します。 | セキュリティアナリストが、異常または安全でないデータアクセスが大きな問題になる前に検知します。 |
まとめ
この単元では、ワークフローをマッピングして、エージェントが人々、データ、システムに関与する時点を特定し、簡略的な脅威モデリングの視点を用いて潜在的なリスクを明らかにしました。STRIDE をはじめとする、正式な脅威モデリングフレームワークに進むときは、このワークフローの視点を念頭に置いておきます。脅威モデリングは、テクニカル上の深刻な脅威の特定に役立ちます。こうした取り組みで最も重要なのは、AI エージェントが常にビジネスのミッションや成果に沿っていることですが、このワークフローのコンテキストがあれば、そこから逸れることがありません。