規制面と商業面の実態を検討する
学習の目的
この単元を完了すると、次のことができるようになります。
- 医療機器のリスクに基づく分類方法と、規制当局の審査におけるその意味について説明する。
- 主要な規制当局が機器の承認にどのように取り組んでいるか比較する。
- 規制上のタイムラインや現地の要件がグローバル発売計画にどのように影響するか説明する。
- ヘルスケア制度、払い戻し体系、価格設定モデルが市場参入にどのような影響を及ぼすか明らかにする。
異なる方法で同じ目標を目指す
メドテックによって人々の生活が向上しますが、こうした商品は人々の健康に直接関わるため、規制が極めて重要です。世界各国の政府は、医療機器が患者に届けられる前に、その安全性と有効性を保証する厳格な規則を定めています。国ごとに詳細は異なるものの、大半の規制当局はリスクベースの分類システムを採用しています。一般に、機器は患者への潜在的なリスクに基づいて、クラスに分類されます。

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クラス I (低リスク): 機器が及ぼす潜在的な危害が最小限です。例として、包帯、舌圧子、老眼鏡などが挙げられます。クラス I の機器の大半は、長期にわたる承認プロセスを必要としません。メーカーが機器を登録して、基本的な品質規格に適合させるだけの場合もあります。
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クラス II (中リスク): ある程度の複雑性と侵襲性を伴います。例として、輸液ポンプ、電動車椅子、血糖値測定器などが挙げられます。通常は、規制当局からこれらの機器が安全で意図したとおり機能することを示すエビデンスが求められますが、その多くは効率的なプロセスで処理されます。たとえば、米国ではクラス II の機器の多くが、FDA の 510(k) 市販前通知の手続きを経ています。この場合は、新しい機器が承認済みの機器と実質的に同等であることを企業が証明します。
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クラス III (高リスク): 生命の維持を目的とするか、体内に埋め込まれる機器で、極めて高いリスクを伴います。例として、ペースメーカー、人工股関節、植え込み型除細動器などが挙げられます。クラス III の機器は概して、臨床試験データや製造工程の詳細な審査を含む、市販前の厳格な承認が必要です。患者の安全がかかっているため、規制当局が丹念に調べ上げます。
地域ごとに表記は異なりますが、リスクが高いほど監視が厳しくなるという原則は同じです。
承認を取り付けさえすればよいというわけではありません。メドテック企業は、製造上の品質や市販後調査などに関する規制にも従う必要があります。多くの国では、市販された後も規制当局が機器の監視を続け、企業が不具合やリコールを速やかに報告することを義務付けています。このすべてによってメドテック企業側の複雑さとコストが増大しますが、患者を守るためには不可欠です。
主要な市場はどこも、安全性と有効性を備えた機器という共通の目標を掲げています。その一方で、承認手続きは大きく異なります。メドテック企業がグローバル計画を立てる際は、こうした違いを認識する必要があります。
次の表は、代表的な規制当局の比較です。
規制のタイムラインは、発売計画に多大な影響を及ぼします。かつては CE マーキングを短期間かつ低コストで取得できたため、長い間多くの企業がまず欧州で商品を発売していました。その後、2021 年 EU 医療機規則 (MDR) で、厳格な要件と長期の審査が導入されました。
今日では、米国市場で最初に商品を発売することが多くなっています。FDA の体系的な手続きと迅速なプログラムにより、新商品のタイムラインを予測しやすいためです。ただし、発売計画はそれぞれ商品とビジネスの目標によって異なります。
新しい外科用機器について考えてみましょう。米国の審査が迅速で、市場が大きいのであれば、FDA の手続きが最優先されるものと思われます。他方、欧州で臨床試験が進行しているのであれば、CE マークのほうが手続きが迅速な可能性があります。昨今の企業の中には、柔軟に対応できるように、複数の地域で同時に申請するところもあります。
通常は、規制の適切な手続きを踏むことで、グローバルな販路拡大の道筋が見えてきます。
ヘルスケア制度
EU では、CE マークを取得後も、各国が独自の価格設定と保険適用を交渉します。保健医療制度は、費用対効果に関する確固たるエビデンスを求めます。ドイツの連邦共同評価機関 (G-BA) や英国の国立医療技術評価機構 (NICE) のような中央機関の評価によって導入に時間がかかることがありますが、一旦承認されれば、制度全体で採用されることが少なくありません。
米国の場合は、公的な支払者と民間の支払者の間で払い戻しにばらつきがあります。高齢者にとっては Medicare の対象になるかどうかが極めて重要です。民間の保険会社はそれぞれ異なるタイムラインや保険契約に従います。適切な保険適用コードの取得が煩雑な場合もありますが、米国で払い戻しの対象になれば、莫大な収益が得られる可能性があります。
中国の場合は、価格と市場参入が地域の調達制度に左右されます。さらに、地域別の入札や病院ごとの意思決定により、複雑さが増大します。承認を取り付けたとしても、市場参入に戦略的なパートナーが必要になることが多々あります。
どの市場でも、支払者と提供者の説得の決め手となるのは、実際的なエビデンスと医療経済に関する研究です。
市場参入は事業運営にも左右されます。多くの市場が現地の事業展開を求めています。
- EU の場合、EU 域外の企業は正式な代理人を任命する必要があります。
- 中国とブラジルでは通常、企業に現地の代理店または子会社が必要になります。
- 日本では、規制当局の窓口になる市販承認取得者 (MAH) が必要です。
こうしたロジスティクスが、コスト、リードタイム、さらには企業が商業チームをどのように管理するかに影響を及ぼします。市場進出の準備の一環として、地域別のコンプライアンス対策を講じます。
市場の実態に応じた商業計画を立てる
どの商品の発売も戦略的な選択です。メドテック企業は、規制上のタイムライン、ヘルスケアのインフラストラクチャ、患者の需要、ビジネス目標などを比較検討して、商品をいつ、どこで発売するか決定します。
主な検討事項は以下のとおりです。
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承認の所要時間: 規制当局による審査が最短または予測可能なのはどこか?
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市場の潜在性: 需要が最も高いのはどこか、ニーズが満たされていないのはどこか?
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価格設定環境: 機器が持続的な払い戻しの対象になる可能性があるのはどこか?
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事業運営の準備状況: 提携するパートナーやチームが存在するのはどこか?
一般的なアプローチは、まず米国で発売して早期の収益を確保し、その後、臨床データと商業データを利用してほかの地域の承認取得を加速させることです。他方、迅速な市場参入を望むのであれば、CE マークの取得を目指し、取得後に CE マークの認知度を利用して、中東やアジア太平洋地域に展開します。
企業の中には、大手の病院と提携してパイロットプログラムを実施し、新しい機器を試用するところもあります。また、省庁や保険会社との価格交渉に向けて、予算影響モデルを構築するところもあります。
進化する商業モデル
機器メーカーは、発売する地域を変えるだけでなく、その販売方法も再考しています。
かつては単発購入で販売されていた資本設備が、「サービス型」モデルで提供されることが増えています。 現在では、病院が手術ロボットのために何百万ドルもの初期費用を工面する代わりに、リースすることや、処置あたりの従量制料金を支払うことが可能になっています。
こうした変化によって、提供者が予算を管理しやすくなるだけでなく、メーカーも経常収益を確保できます。また、両者の動機も一致しています。機器が機能しなければ、購入者が他社に乗り換えてしまう可能性があるためです。中には契約が成果ベースで、機器が成果をもたらさなければ支払が発生しないというものもあります。
予算に制約がある地域や、公的な保健医療制度では特にこうしたモデルが重宝されます。企業はまた、サブスクリプション課金、従量制料金、サービス契約の追跡にも対応しています。
コンテキストがすべて
メドテックはグローバル事業ですが、その成功は地域ごとに異なります。同じ機器を 2 つの国で発売する場合に、まったく異なるプレイブックが必要になることがあります。
規制のフレームワークがどのように機能し、それがヘルスケア制度や払い戻しとどのように相互作用するのかを理解すれば、メドテック企業が商品を発売するタイミングを計り、価格設定計画を立て、適切な商業モデルを選択できるようになります。
メドテック組織のソリューションには、こうした多様性が反映されている必要があります。フィールドサービスの追跡、グローバルなセールスイネーブルメント、患者エンゲージメントツールなど、どの業務をサポートする場合でも、大切なのは地域独自のワークフローとコンプライアンスです。
次の単元では、こうした市場の実態が、コネクテッドケアから AI、ロボット工学やその先まで、メドテックを変容させるテクノロジーとどのように関連し合うのかを検討します。未来は急速に近づいています。では、詳しく見てみましょう。