持続可能なビジネスを理解する
学習の目的
この単元を完了すると、次のことができるようになります。
- 持続可能なビジネスとリレーションシップ設計の関係について説明する。
- 持続可能なビジネスの概念が時間の経時的にどのように進化してきたかを説明する。
- 関係者資本主義を定義する。
では、持続可能性とビジネスについて説明しましょう。
持続可能なビジネスをリレーションシップ設計の目標にする
持続可能なビジネスとは何でしょうか? ビジネスにおける持続可能性とは、ビジネスとそれを取り巻く社会や環境との関係の質を意味します。
『Sustainable Excellence (持続可能な卓越性)』の中で、BSR の CEO である Aron Cramer と著者の Zachary Karabell は、持続可能なビジネスを「...投資家、顧客、従業員に価値をもたらし、従業員と従業員が関わるコミュニティの生活水準を向上させ、天然資源を賢く利用し、人々を公平に扱うビジネス」と表現しています。
これは、持続可能なビジネスが「Relationship Design (リレーションシップ設計)」に沿っていることを意味しています。この設計は、Salesforce が「顧客、従業員、コミュニティと強い関係を築くことで、ビジネス価値と社会的価値を高めるために誰もが使用できる創造的な実践方法」と定義しているものです。
これは新しい考えではありません。歴史上、リーダーや経済学者、著名な思想家は、ビジネスと社会の関係を定義しようとしてきました。 これまで社会でこの関係がどのように考えられてきたのか、時代を追って見ていきましょう。
この単元では、ビジネスが社会に及ぼす影響をこのリーダーたちがどのように捉えていたかを理解するために、その時代ごとの重要な時点での考え方を詳しく説明します。また、この考え方が今日の持続可能なビジネスと設計の原動力となっていることも紹介します。歴史の授業というわけではありませんが、この単元の最後にある「リソース」セクションにより詳細な資料を揃えています。関心のある方は参照してください。
ビジネスと社会の関係を理解する
ビジネスと社会の関係は、古来より重要なテーマでした。メソポタミアのハムラビ王は、労働者の行動規範を定義して労働中にお互いの安全を無視してはならないとし、野良仕事や牛追いをする人には法定賃金を定めました。
くさび形文字で石板に書かれたハムラビ王の行動規範
何世紀にもわたって、ビジネスと労働者との関係や政府と社会全般との関係は絶え間ない議論、変化、闘争の源となっていました。
1970 年、経済学者のミルトン・フリードマンは、「企業の唯一の責任は株主の利益を最大化することである」と強く主張する有力な論文を発表しました。
これにより、企業の株主との関係を他のどの関係よりも優先させる株主優先主義、つまり株主資本主義の時代が到来しました。これは、この半世紀の間、ほとんどの企業において支配的な経営理念となっています。
この理念とそれに伴う世界的な経済成長によって、商品、サービス、グローバル市場の拡大が加速し、世界中の多くの人々の健康、生活水準、コミュニケーションも向上しましたが、同時にかなりの犠牲も払うことになりました。
何よりも利益だけを重視する一心で、原油流出、企業倫理スキャンダル、金融危機、所得格差の拡大、気候危機など、さまざまな望ましくない結果を招きました。このような課題を抱えることで、広く受け入れられてきた株主優先主義という定説に疑問が投げ掛けられています。
すべての関係者を巻き込む
この 15 年間で、持続可能性は倫理的に正しいビジネスの在り方であるだけでなく、直接的なビジネス上の価値の源泉としてますます認識されるようになってきました。Blackrock の CEO である Larry Fink は、「2019 letter to CEOs (2019 年 CEO への書簡)」でまさにこれを主張しています。
この主張はビジネスにおいてはまったく一般的な規範ではなかったため、他の CEO から反発を受けましたが、責任投資と企業の持続可能性が主流になっていく上で重要なマイルストーンとなりました。この手紙の中で、同氏はミルトン・フリードマンの元の論文に真っ向から反論し、「...長期的な繁栄を目指すのであれば、どの企業も財務実績を示すだけでなく、その実績がどのような形で社会に還元されているのかを示す必要があります」と述べています。
また、Fink に同調し、社会におけるビジネスの役割に注目して再考しているビジネスリーダーもいます。米国の CEO で構成された団体である Business Roundtable は、顧客、従業員、サプライヤー、コミュニティ、株主といったすべての関係者の利益を確保すると大企業に約束することで、企業の目的を再定義しました。これは、株主優先主義から脱却し、関係者資本主義に移行することを明示的に示しています。Salesforce の CEO である Marc Benioff は次のように述べています。
「株主の利益を最大化することへの執着がもたらしたものを見てください。それは経済的、人種的、健康の不平等、気候変動による大災害です。今こそ、新しい様式の資本主義である関係者資本主義が求められています。つまり、企業にはすべての関係者に対して責任があることを認識するということです。もちろん、これには株主だけでなく、従業員、顧客、コミュニティ、さらには地球も含まれます。」
ビジネスにおける世界との関係を設計する
2020 年代に入ると、企業は世界への累積的な影響をより強く意識するようになり、そのような影響がもたらすリスクと結果を管理するための道として、持続可能性に全力で取り組むようになりました。「2019 BSR-Globescan Survey (2019 年 BSR-Globescan によるアンケート)」に回答した企業の半数以上が、自社の CEO が掲げる上位 5 つの優先事項に持続可能性が含まれていると答え、2015 年の 37% から増加しました。
次はどうなっていくでしょうか? どうであれ、その問いにどのように答えるかについては設計と設計者が重要な役割を果たすことになります。次の単元で学習していきましょう。
リソース
- 外部サイト: SpringerOpen: A literature review of the history and evolution of corporate social responsibility (企業の社会的責任の歴史と進化に関する文献調査)
- 外部サイト: SpringerOpen: Proto-CSR Before the Industrial Revolution (産業革命以前の最初の CSR)
- 外部サイト: The New York Times: A Free Market Manifesto That Changed the World, Reconsidered (世界を変えた自由市場宣言の再考)
- 外部サイト: Former chief economist at the World Bank on globalization’s impact on poverty and inequality (グローバル化が貧困と不平等に与える影響に関する元世界銀行チーフエコノミストのレポート)
- 外部サイト: BSR: The Business Role in Creating a 21st-Century Social Contract (21 世紀の社会契約の作成におけるビジネスの役割)
- 外部サイト: BSR: The Decisive Decade (決定的な 10 年) (動画)
- 外部サイト: Business Roundtable: Business Roundtable Redefines the Purpose of a Corporation to Promote ‘An Economy That Serves All Americans’ (Business Roundtable が企業の目的を再定義し、「すべての米国人に奉仕する経済」を促進)