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ロールアウト戦略の作成

学習の目的

この単元を完了すると、次のことができるようになります。

  • モバイルとデスクトップの用途の違いを説明する。
  • ユーザーがモバイル Salesforce に求めることを探り出す。
  • 適切なモバイルのユースケースを定義して、優先順位を付ける。

モバイル志向へのシフト

ロールアウト戦略の作成に関する基本事項について説明する前に、「志向性のシフト」というやや抽象的な概念に言及しておく必要があります。

モバイルのロールアウトが近づいたときに大勢のお客様が犯す間違いが、デスクトップの Salesforce 環境をモバイルにも再現しようとすることです。これは賢明ではありません。モバイルデバイスとラップトップではユーザーの利用法が大きく異なるためです。

1 日に何回ぐらいスマートフォンをチェックしているか考えてみてください。50 回ぐらいですか? 100 回ですか? (この程度では携帯中毒ではありません。)実際、2023 年のレポートでは、毎日平均で 58 回もスマートフォンをチェックしていることが判明しています。また、毎日スマートフォンに費やす時間は平均で 3 時間 15 分だということも判明しました。

計算してみましょう。モバイルセッションの平均時間は約 70 秒ということになります。驚きですよね? この数値はモバイル志向へのシフトの鍵を握るものであるため、頭に入れておいてください。

モバイルの鍵はマイクロモーメント

通常ラップトップの使用時は着席した状態で長時間操作しますが、携帯では瞬発的な操作を繰り返します。たいていは道順の検索やカレンダーのチェックといった特定の目的をかなえるために操作します。時間がなくて途中でやめてしまうこともあります。

Salesforce では、こうした瞬発的な操作をマイクロモーメントと呼んでいます。ユーザーがそのコンテキストで携帯を利用し、すばやく行動を起こしたり情報を入手したりする時点のことです。こうした瞬発的な一点集中型操作の平均時間は約 1 分です。

マイクロモーメントの構造

マイクロモーメントが一瞬であるからといって、軽視すべきではありません。この一瞬は制限ではなく、好機なのです! ユーザーの 1 日の極めて重要な一瞬をとらえれば、そのニーズを予測して、業務の効率化をサポートするチャンスになります。

マイクロモーメントをうまくとらえれば効果は絶大です。コンテキストに即応した短時間のある種のアトミックな操作が促されるためです。

  • 短時間: 簡潔な操作。所要時間は 1 分半以内です。
  • アトミック: 一点集中的な操作。単一のワークフローまたは活動で、ほかの要素に依存しません。ユーザーがフローを一旦離れ、別の場所で別の操作を行う必要がありません。
  • コンテキストに即応: 操作がリアルタイムに行われ、ユーザーの現在の状況に対応しています。ユーザーが今何をしているか? 何を必要としているか? どこにいるのか? カレンダーの次の予定は何か?

マイクロモーメントの 3 つの性質を示す図

こうしたマイクロモーメントの瞬間にモバイルユーザーに価値をもたらすことができれば、ユーザーにとって Salesforce アプリケーションが仕事を容易にするうえで欠かせないツールになります。ユーザーに感謝され、あなた自身の Salesforce の利用度も向上することでしょう。いいことずくめです。

マイクロモーメントからユースケースへ

では、Salesforce アプリケーションで何らかのタスクを実行する時間がユーザーには 1 ~ 2 分しかない場合に、こうしたマイクロモーメントを活用できるようサポートするにはどうすればよいでしょうか?

まず、モバイルの視点から Salesforce の実装を見直し、ビジネスプロセスを小分けにします。タスクのうち、携帯電話ですばやく実行できるものはどれでしょうか? モバイルユーザーが特に必要とする事項に対処し、時間が節約されるシナリオを特定します。こうしたシナリオが、最初のユースケースになります。

適切な対象ユーザーの選択

社内の誰でも Salesforce アプリケーションを使用する可能性がありますが、まずは外出することや自席を離れることの多いユーザーを対象にすることをお勧めします。

最初は営業組織やサービス組織内の主要な役割に目を向けます。こうした集団では価値の高いユースケースを見つけやすいためです。Service Cloud を利用している場合は、フィールドサービス担当を対象にします。Sales Cloud を利用している場合は、フィールドセールス担当のユースケースのほか、営業マネージャーや営業エグゼクティブのユースケースも考えます。

外勤が多い 4 種類のユーザーを示す図

外勤の多いユーザーに対処した後で、ほかの集団のユーザーに適用するユースケースを考案します。潜在的なモバイルユーザーとは、通勤中、カフェで並んでいるとき、子どものサッカーの試合の観戦中など、さまざまな状況で Salesforce を使用することでメリットが得られると思われる人々です。

場合によっては、従業員が自席でモバイルアプリケーションを使用することもあるかもしれません。懐疑的ですか? では、インターネットがダウンした場合、停電した場合、ラップトップが故障した場合などを考えてみてください。モバイルでアクセスできるということは、従業員が Salesforce で途切れることなく業務を遂行できるということです。

触発を受ける: ユースケースのサンプル

もうすでにモバイルのユースケースのアイデアが溢れているかも知れませんね。ただし、モバイル志向にシフトし始めたばかりの方は、何らかの触発を受ける必要があるかもしれません。

その場合は、Salesforce の『100 Ways to Run Your Business from Your Phone (携帯で仕事を進める 100 の方法)』という電子書籍をご覧ください。Salesforce の実際のユーザーが挙げたモバイルのアイデアがたくさん載っています。営業、サービス、マーケティングのユースケースのほか、IT、業務、人事などの各部門で Salesforce アプリケーションを使用する好例も挙げられてます。

他方、今すぐにでも実践に移したい方のために、ごく一般的なタイプの CRM 外勤者のモバイルのユースケースを以下にいくつかご紹介します。

役割

モバイルのユースケース

営業担当

  • 活動を記録する
  • 案件でコラボレーションする
  • 案件情報を更新する
  • 新規案件を確認する
  • 取引を開始する
  • 顧客の質問に対する回答をすぐに得る

営業マネージャー

  • 割引を承認する
  • パイプラインを表示する
  • 営業担当をサポートする

営業エグゼクティブ

  • 会社のパフォーマンスのリアルタイムのメトリクスを表示する
  • 重要な会議の前に最新情報を得る

サービス担当

  • 顧客の施設の写真を取り込む
  • 注文状況を確認する
  • エキスパートから回答をすぐに得る
  • 顧客の施設までの道順を調べる
  • ケースを更新またはクローズする
  • 顧客情報を表示する

ユーザーとの早期からの頻繁な協力

モバイルのユースケースに関する素晴らしいアイデアで湧いてくるからといって先走ることなく、一旦立ち止まって極めて重要な人物、つまりユーザーの考えも聞いてみましょう。

ユーザーが本当に求めているものは何か? ユーザーの課題は何か? ユーザーの立場になり、その観点の理解に全力を尽くします。というのも、Salesforce アプリケーションによって価値がもたらされず、仕事が容易にならなければ、ユーザーが Salesforce アプリケーションを採用することはないためです。ビジネスのニーズとユーザーのニーズのバランスを図ることも必要です。

ユーザーのニーズを解明する一番の方法は、ユーザーの生の声を聞くことです。(ハッと驚くことがあります)。本当です。ユーザーを 1 日観察して質問をすれば、思いもよらなかったモバイルの機会が見出されます。

ユーザーのニーズの探索

シャーロック・ホームズのハンチング帽を被ったつもりで、ちょっとした探偵作業に取りかかります。以下は、ユーザーの考えを聞くためのいくつかの手法です。

  • 同乗同行
  • 面談
  • フォーカスグループ
  • アンケート
  • Chatter (またはほかのコラボレーションツール)

「同乗同行」には多大な時間を費やすことになりますが、ユーザーのことをよく知ることができます。ユーザーの成功や戸惑いを実際に目にすることに勝るものはありません。

ですから、少なくとも 1 人の外勤者の典型的な 1 日に同行してみます。ユーザーのすべての訪問先に同行し、ミーティングを見学し、さまざまな人とのやり取りを観察します。目鼻の効く探偵になり、手がかりを見つけます。

  • 顧客からどのような質問を受けているか?
  • どのような情報をすぐに得られれば役に立つか?
  • ユーザーを煩わせ、時間のかかっている業務はどれか?
  • クリップボード、プリント、スプレッドシートなどを持ち歩いているか? 付箋を使っているか?
  • Evernote や Dropbox など消費者向けアプリケーションに情報を保存していないか? そうしたデータを Salesforce に簡単に保存する方法を示すことができるか?

実務を遂行中のユーザーを観察することに時間と労力を費やす価値があることを説得できたのではないかと思います。ただし、どのような調査手法を採るにしろ、相手の話に耳を傾けること、そして綿密なメモを取ることの 2 点は忘れないでください。

ユーザー調査を解釈する

調査が完了した後、こうした貴重なインサイトをユースケースに転換するにはどうすればよいでしょうか? 以下に、いくつかの課題の例と、Salesforce アプリケーションを使用した解決案を示します。

観察された課題

解決案

営業担当が忙しすぎて、顧客を訪問後に会議のメモを転記する時間がない。販売に役立つ可能性のある情報を忘れてしまうことがある。

「活動のクイック記録」カスタムアクションを作成します。日付と訪問種別をデフォルトに設定し、[説明] 項目を設けます。携帯の音声テキスト機能を使えば、メモを [説明] 項目に口述でき、1 分もかかりません。タイプする必要がありません!

営業担当が製品データシートを確認するのに時間がかかる。バインダーを調べるか、社内に電話しなければならない。

マーケティングチームがデータシートを投稿できるように専用の Chatter グループを作成します。モバイルユーザーが携帯から簡単に最新ファイルを参照できます。

会議の後、営業担当が本社に電話して発注する時間のないことが多い。顧客から注文を受けた後発注までに時間がかかる。

「発注」というカスタムアクションを作成します。ユーザーが 2 ~ 3 の必須項目に入力すると、この更新によってカスタマーサービスにメールを送信するワークフローが開始されます。メールには、注文処理の開始に必要となる情報が記載されています。この方法により、担当者が顧客に対応中に発注することができます。

ユースケースの多くは、マイクロモーメントを念頭にすぐに使える標準機能がパッケージ化されています。「活動のクイック記録」アクションの例を見てみましょう。ユーザーはすでに Salesforce アプリケーションで活動を記録することができます。ですから、あなたがすべきことは、外出中に状況に応じた特定の操作をすばやく簡単に実行できるショートカットをユーザーのために作成するだけです。

こうしたユースケースをいくつか実装する方法を知りたくてうずうずしているのではないでしょうか? 大丈夫です。このモジュールの後半で、モバイルアプリケーションのカスタマイズの基本について説明します。

実効性のあるユースケースの特定

自分のアイデアとユーザーから受け取った情報とで、たくさんのユースケース案を抱えているものと思います。どのユースケースが最適かを見極めるにはどうすればよいでしょうか?

以下は、有益なユースケースを構成する 3 つの要素です。

  • マイクロモーメントを念頭に設計されている。コンテキストに即応した短時間のアトミックな操作にします。
  • エンドユーザーにとって価値がある。ユースケースは、従業員にとってメリットであり、仕事を容易にする効果があります。
  • ビジネスへの影響が大きい。ユースケースを KPI などの重要なビジネス統計値に結び付けることができます。ユースケースによって組織にどのような価値がもたらされるかを測定することも可能です。

ユースケースに優先順位を付ける

極めて実用的な数々のモバイルのユースケースをユーザーに紹介したくてうずうずしているのではないでしょうか。ただし、ちょっと落ち着いてください。水を差すようで申し訳ありませんが、新しい機能についてユーザーが一度に消化できる情報量には限界があります。徐々に開始して、繰り返し適用します。モバイルの導入時には、上位 3 つのユースケースを選ぶことをお勧めします。

では、どのユースケースを最初にロールアウトするかはどのように判断すればよいのでしょうか? どれも素晴らしいように思われます! そこで Salesforce では、ユースケースを簡単なグラフ上に示し、労力への見返りが一番大きいものを確認する便利なマトリックスを考案しています。この仕組みは次のとおりです。

  1. 横軸は、思考態度面での採用の容易性を表します。ユースケースをそれぞれ評価して、ユーザーの既存の行動を変えるにはどの程度の取り組みを要するかを判断します。
  2. 縦軸は、ビジネスへの影響を表します。ビジネスにどのくらいの価値が付加されるかに従って、ユースケースごとに順位を付けます。
  3. ユースケースをグラフ上に示し、どの位置にくるかを確認します。

ビジネスへの影響と思考態度面での採用の容易性を示すグラフ

ここでアドバイスです。すぐに効果がありそうなものから取り組みむことです。高価値とユーザーの採用しやすさという 2 つのカテゴリに適合するモバイルのユースケースはたくさんあります。

おそらくは、変革をもたらすほどの多大な影響力があると考えられるユースケースをいくつか考案しているのではないかと思いますが、概してそうしたケースには綿密な計画と膨大なリソースと技術的なスキルが必要です。こうした大々的なモバイルイニシアチブは、モバイルロールアウトの後半、つまり、すぐに効果がありそうな基本的なモバイル採用ケースを達成した後に取り組みます。

モバイルのユースケースに優先順位を付けたところで、次は、社内で信頼されるモバイルアドバイザーになれるよう Salesforce アプリケーションについて学習していきます。

リソース

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