イネーブルメントプログラムによる収益への影響を評価する
学習の目的
この単元を完了すると、次のことができるようになります。
- 従来のイネーブルメントプログラムで改善の余地がある点を挙げる。
- 結果ベースのイネーブルメントが会社の収益目標達成につながる理由を説明する。
一般的なイネーブルメントプログラムの問題
営業チームが市場向けのセールス戦略を遂行し、商品のセールスプレーを駆使して、営業サイクルを最短化し、競合他社をかわすためには適切な情報、インサイト、ツールが必要です。理想を言えば、営業チームに適切なイネーブルメントが実施されている場合には、会社のすべての商品やサービスを効果的に売り込み、安定したパイプラインを確保して、商談を迅速に成立させ、会社の収益目標を遅滞なく達成することができます。おそらくあなたの会社でも、営業チームによる収益目標の達成を目的とする営業プログラムを実施しているものと思われます。
たとえば、次のような理由で営業プログラムを実施していることが考えられます。
- セールスパイプラインを構築または加速する
- 営業担当に新商品について説明する
- 営業担当が新しい市場や地域に進出しやすくする
- 競合他社に勝つ
- 既存の顧客に他の商品やサービスをクロスセルまたはアップセルする
- 新任の営業担当にオンボーディングを行う
大半の企業は営業担当が一刻も早く戦力となり、短期間で成果を上げることを望んでいます。イネーブルメントリーダーは、イネーブルメント活動の調整に関与し、営業プログラムの効率的な実施を目指す人々です。この場合の優先事項は、リードを生成し、リードとの取引を開始して商談を成立させ、収益を上げる担当者の能力を高めることです。
現在、社内の営業担当や提携先の販売パートナーに実施しているトレーニングやコーチングについて考えてみてください。使用しているイネーブルメントコンテンツに満足し、生産的で自信のある営業担当の育成に役立っていると思っているかもしれません。けれども、現行の営業プログラムが収益目標の達成にさほど貢献していないことに気付いているのではないでしょうか。一部の市場で苦戦している、一部のサイクルに時間がかかっている、一部の商品やサービスの業績が芳しくない、競合他社に商談を奪われているといったことが起きているかもしれません。
営業プログラムが効果的でない理由として、次のことが考えられます。
- プログラムが営業担当の日常業務と乖離している。プログラムが通常の業務を煩わせるもので、さまざまな形式や複数のシステムのコンテンツで構成され、クリックやブラウザータブの多数の操作を必要とする可能性がある。
-
プログラムの作成に膨大な時間がかかり、メンテナンスも厄介なため、営業担当が理解した内容を実証したり応用したりすることに対する説明責任がほとんど果たされていない。
-
プログラムを追跡して収益に結び付けることが難しい。修了指標、閲覧数、ダウンロード数は分析できるが、平均商談規模の増大やサイクル時間の短縮など、特定の収益成果に結び付けることができない。
トレーニングコンテンツを利用しやすくし、収益成果に直結する行動を変容させる営業プログラムを簡単に作成して維持するにはどうすればよいでしょうか?
成果ベースのイネーブルメントの必要性
Salesforce では、どうすれば営業プログラムを容易に実施できるか、イネーブルメントエクスペリエンスの成功と価値を評価するためのツールを改善するにはどうすれば良いかを自問しました。この問題を新たな角度から検討し、インプット (取り組むべき必須コンテンツのチェックリスト) ではなく、アウトプット (イネーブルメントエクスペリエンスによってもたらされることが期待される具体的なビジネスインパクト、つまり成果) に着目することにしました。
このアプローチがどのように機能するのか確認するために、お客様仕様のスタイリッシュで履き心地の良いカスタムスニーカーを製造する Cloud Kicks というシューズブランドを見てみましょう。Cloud Kicks では大手の小売企業と B2B (企業間取引) 契約を締結し、オンラインと店舗で購入できるようにしています。
Cloud Kicks の営業担当は、取引先となる新たな小売業者を開拓しています。Jose Figueroa は、Cloud Kicks で優れた業績を上げている営業担当のチームをとりまとめる営業マネージャーです。先日採用した Candace Evans が新任の営業担当としてチームに加わりました。Jose はチームの有能な営業担当の中で、Candace が一日も早く戦力になることを期待しています。
Cloud Kicks の新任の営業担当を対象に Jose が実施する現行のイネーブルメントプログラムは、一連のスライドデッキ、動画、PDF、厳選されたその他のコンテンツへのリンクが記載されたスプレッドシートで、2 週間でこのプログラムを終えることになっています。Candace ははやる気持ちを抑えて、このタスクにじっくりと取り組みます。すべて確実に理解しておきたいと思っているため、資料の隅々まで目を通し、できるだけ細部まで吸収しようとしています。それにしても、すごい量のコンテンツです。1 か月経ってようやく、Cloud Kicks の販売の概要がつかめてきました。
その後、6 か月経ってもまだ期待されるレベルには届かず苦戦しています。1 件目の商談成立にはほど遠い状態です。Cloud Kicks では営業担当に対し、4 か月後に 1 件目の商談の収益をもたらすことを期待しています。Jose は、Candace の低調な出だしに、イネーブルメントエクスペリエンスが何らかの形で関係しているのではないかと疑問を抱きます。そこで Candace に質問したところ、コンテンツの中にアクセスできないものや非効率的なもの、実務に即していないものがあるということでした。Candace は、読んでいるコンテンツが現在行っている業務と直接関係がなく、数週間後に関連ある業務に至ったときに、そのコンテンツを読み返さなければならないことが少なくないと感じていました。
Jose はイネーブルメントプログラムを簡潔にして、Candance が容易に取り組めるようにするにはどうすれば良いかと考えます。まず、「短期間で 1 件目の商談を成立させられるようにする」という率直な問題を書き出しました。
書き出した文を眺めながら、このコンテキストで「短期間」とはどういうことかと頭をひねります。続いて、もう少し具体的に「営業担当が 60 日以内に 1 件目の商談を成立させる」という 2 つ目の文を書き出します。
Jose の最初の文は、一般的な目的を示しています。2 つ目の文は、その目的に向けて取り組むことができる具体的な目標を示しています。さらに、Salesforce にある Cloud Kicks の営業データを使用して、具体的な目標を測定できればそれに越したことはないと考えます。上記の文を次のとおり整理します。
プログラムで達成すべき成果 |
達成した成果を Salesforce で測定する方法 |
---|---|
営業担当が 60 日以内に 1 件目の商談を成立させる。 |
営業担当が「商談成立」と設定した商談件数を数える。 |
続いて Jose は、この成果を達成するために担当者が示す必要がある行動は何かと考えます。商談を成立させるためには多数の段階を経る必要があり、電話をかける、接点をもつ、話をする、予約を取り付けるなど、さまざまな作業を達成して積み重ねていかなければなりません。
新規採用者がこうした重要なマイルストーンを一歩ずつ遂行することができれば、成果を達成する可能性が高まるのではないかと Jose は考えます。たとえば、Candace は 30 日目まで電話をかけていませんでしたが、新規採用者が Jose の望む成果を達成しようとすれば、10 日目までに重要な電話スキルを身に付けている必要があります。Jose はさらに具体的で測定可能な活動をメモに書き留めます。
プログラムで達成すべき成果 |
達成した成果を Salesforce で測定する方法 |
---|---|
10 日目までに電話を 30 件記録する。 |
ユーザーが電話として記録した ToDo 件数を数える。 |
15 日目までにメールを 20 件送信する。 |
ユーザーがメールとして記録した ToDo 件数を数える。 |
10 日目までにミーティングを 1 件記録する。 |
ユーザーが営業訪問としてスケジュールした行動件数を数える。 |
最後に Jose は、こうした小さなマイルストーンが突発的に生じるものではないことを理解します。新規採用者には、業務の流れに沿った適切なタイミングで、電話をかける、会話を進める、ミーティングの予約を取り付けるといったマイルストーンをうまくこなす方法をトレーニングする適切な種類の課題が必要です。Jose は、新規採用者にこうした活動を遂行するスキルを習得させたいと考えます。
そこで、イネーブルメントプログラムの最初の 10 日間は、プロスペクティングに関するコンピテンシーを培う次のコンテンツに絞り込むことにします。
- 経験豊富な営業担当がプロスペクティングについて新規採用者に指導する動画を視聴する。
- プロスペクティングのプロセスを説明し、評価を目的とする質問の仕方を提案するスライドデッキを確認する。
- お客様から高評価を得た実際の電話の録音を聞く。
- お客様の事例を読む。
- セールスピッチを練習して録画し、マネージャーや経験豊富な営業リーダーにフィードバックを依頼する。
プログラムのコンテンツのうち、セールスプロセスの後半で生じる作業 (商談の見積作成、契約交渉など) に関連するものは後回しにし、新規採用者の日常業務がその段階に達したときに取り組めるようにします。
Jose は自身のメモをプランにまとめます。
プログラムの要素 |
達成すべき目標 |
達成した成果を Salesforce で測定する方法 |
---|---|---|
成果 |
営業担当が 60 日以内に 1 件目の商談を成立させる。 |
営業担当が「商談成立」と設定した商談件数を数える。 |
マイルストーン |
営業担当が 10 日目までに電話を 30 件記録する。 |
ユーザーが電話として記録した ToDo 件数を数える。 |
営業担当が 15 日目までにメールを 20 件送信する。 |
ユーザーがメールとして記録した ToDo 件数を数える。 |
|
営業担当が 10 日目までにミーティングを 1 件記録する。 |
ユーザーが営業訪問としてスケジュールした行動件数を数える。 |
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課題 |
担当者に関連するコンテンツをすべて完了することを義務付ける。 |
担当者に関連するコンテンツをすべて完了することを義務付ける。 |
Jose のプランは、成果ベースのイネーブルメントに向けた最初のステップです。Jose は、最初にコンテンツのチェックリストの作成に取りかかるのではなく、まず達成したい収益成果 (「短期間で 1 件目の商談を成立させられるようにする」) から始めました。そこから遡って、Salesforce で測定できる漸進的なマイルストーンを特定し、この成果を促進するために必要となる行動を割り出しました。また、こうしたマイルストーンを達成するためには、どのようなコンテンツを用意すべきか検討しました。
成果を評価するモデル
収益に影響を及ぼす他のビジネス成果を特定して測定する場合も、Jose のこの思考プロセスを繰り返します。Jose は (あなたも!) 次のモデルに従ってプランを立てることができます。
- 改善すべき収益成果を特定し、その成果の測定方法を決定する。
- この成果を達成するにはどの行動を変えていくかを見極め、Salesforce に存在するレコードを使用してその行動の測定方法を決定する。
- この新しい行動を促進するために組織にどのようなコンテンツが必要かを特定し、コンテンツの完了率を測定する方法と、受講者のコンテンツの理解度を評価する方法を決定する。
- イネーブルメントプログラム全体の成果を評価し、必要に応じて繰り返す。
次の単元では、更新された新規採用者向けのイネーブルメントエクスペリエンスによってもたらされるビジネス成果の例と、その測定方法についてさらに確認します。