推論エンジンについて知る
学習の目的
この単元を完了すると、次のことができるようになります。
- 推論エンジンとは何かを説明する。
- 問題解決のために推論エンジンで使用される 3 種類の推論方法を挙げる。
- LLM を導く 4 つの一般的な推論手法を挙げる。
AI の最新イノベーション
AI は、チャット以外のことも行えるようになりました。実際に問題を熟考し、選択肢を比較検討し、決定を下すことができます。複雑な意思決定、インサイトの提供、その時々の文脈への対応を行うために、AI エージェントは推論を使用します。
一方、AI が最も効果的に機能するのは、ユーザーが AI の考え方を理解している場合です。このモジュールでは、高度な AI がユーザーの要望 (メールのドラフト作成、キャンペーンブリーフィングの生成、Web ページの構築、競合他社の調査、データの分析、通話の要約、その他の時間を節約できるタスクなど) を理解するときに推論エンジンがどのように役立っているかを説明します。
では、そもそも推論エンジンとは何なのでしょうか?
AI に頼る理由
推論エンジンは、問題を解決するときに人間が行うように情報を収集し、論理ルールに従い、意思決定を行う AI の一種です。
通常、人間と同じように、3 種類の推論方法を使用します。
-
演繹:「すべての果物には種がある。マンゴーは果物である。したがって、マンゴーには種がある。」 (一般的なルールを出発点とし、そのルールを特定のケースに適用します。)
-
帰納:「直近 5 回のミーティングは遅れて開始された。よって、おそらく次回も遅れて開始されるだろう。」 (過去の経験から得られたパターンに注目して、一般的な予測を行います。)
-
仮説:「電気が消えていて、誰も玄関に出てこない。よって、おそらく不在である。」 (限られた手がかりに基づいて最善の推測を行います。)
このような方法を使用することで、推論エンジンの有用性が大きく高まります。思考している人間が行っている文脈の把握と認識が本来求められるような問題を AI が推論によってすばやく解決できるようになるため、広範囲にわたって新しい働き方を実現できます。
LLM が推論を学習する手法
大規模言語モデル (LLM) は 2022 年末に主流となりましたが、研究者は LLM が人間のように思考して計画を立てることができるようになる方法を試行し続けています。その成功の鍵は プロンプト、つまり LLM の応答を導くように工夫して記述された指示です。プロンプトを使用して LLM が問題解決のための論理的な計画を示せるようにすることを推論手法と呼んでいます。
以下に、一般的に普及されている 4 つの手法を紹介します。
1. 思考の連鎖 (Chain-of-Thought、CoT)
これは、LLM に「答えの導出過程を示す」よう教えることです。CoT では、難問に取り組んでいる人間と同じように、複雑な問題を一連の小さなステップに分解します。数学の文章題、常識的な推論など論理が求められるタスクに適しています。利点として、エンジニアは各ステップをたどり、どこが誤ったかを確認することができます。
2. 推論と行動 (Reasoning and Acting、ReAct)
ReAct では、推論と現実世界の行動を組み合わせます。この手法では LLM が知っていることのみに依存するのではなく、ユーザーからのフィードバックに基づいて段階的に、対話、情報の確認、回答の改善を行います。「ハルシネーション」(誤った回答) が減少し、結果の信頼性が高まります。
3. 思考の木 (Tree of Thoughts、ToT)
ToT では、1 つの計画に従うのではなく、複数の選択肢についてブレインストーミングを実施するなど各ステップで考えられる多くの経路を探索し、最善の選択を行います。数学問題、創作、戦略的な意思決定といった複雑な課題に役立ちます。
4. 計画による推論 (Reasoning via Planning、RAP)
RAP では、LLM が将来の結果をシミュレーションするのを支援することにより推論を向上させます。人間の戦略家と同じように、進行する過程で、展開される行動を予測し、代替を探索し、計画を改善します。長期的な計画、論理的推論、多段階での問題解決が求められるタスクに適しています。
こうした手法により、LLM には、ただ推測するのではなく、問題を体系的に熟考するしくみが備わります。問題をステップに分解する手法 (CoT)、フィードバックに基づいて対話する手法 (ReAct)、複数の選択肢を探索する手法 (ToT)、将来の状況をシミュレーションする手法 (RAP)、そのどれであっても、それぞれの手法によって AI は人間の推論に近づきます (ただし、スピードは人間を上回ります!)。
Agentforce で LLM の推論がデプロイされるしくみ
Agentforce は、Salesforce のエージェント層、つまり賢い AI ヘルパーです。完全な AI ソリューションとして、平易な言葉でエージェントとチャットする多様な方法を従業員と顧客に提供します。これにより、チームの業務が迅速化し、顧客は即座に回答を得ることができるようになります。バックグラウンドでは大規模言語モデル (LLM) が使用されています。理解して応答するだけでなく、推論エンジンのように複雑なタスクを計画することもできます。
段階的に次の処理が行われています。
- ユーザーが「Web ページを作成する」などの要求を入力します。
- Agentforce は、入念に設計されたプロンプトを使用して、ユーザーの入力を安全な LLM に送信します。これにより、LLM ではユーザーの入力が定義済みのニーズに変換され、AI がそれを理解します。
- 意図が明確になったら、別のプロンプトにより、その意図を満たすための計画を作成するよう LLM に要求します。
- LLM はステップごとの計画で応答します。この計画は、エージェントが実行を許可されているアクションのみで作成されるため、動作の安全性と信頼性が確保されます。
- エージェントが手順に従い、適切な順序でアクションを実行し、結果をユーザーに返します。
このプロセスによって、ユーザーに求められる精神的な労力が軽減します。ユーザーは何かを実行する方法を見つけ出さなくても、要望を伝えるだけで Agentforce が対処してくれます。
推論の実際のユースケース
Agentforce を導入すると、企業は大規模言語モデルをリアルタイムの推論エンジンに変える画期的な機能を手に入れることができます。AI が質問に答えるだけでなく、複雑なシナリオを理解し、次のステップを計画し、アクションを実行するようになります。
たとえば次のようなことを行えます。
-
売上が停滞? Agentforce が CRM をスキャンし、有望なリードを見つけ、担当者のために準備を整えることができます。
-
商談が不調? エージェントがリスクの高い商談にフラグを設定し、取引先の履歴を要約し、マネージャーに明確なインサイトをすばやく提供することができます。
-
超過請求の問題? エージェントが適切なレコードを引き出し、役立つトラブルシューティング手順を示し、迅速な問題解決を支援します。
-
四半期を好調に終えたい? エージェントが顧客のセンチメントを評価し、商談の進路を予測し、今後の成功に向けてその日に実行するべきアクションを推奨することができます。

上記のすべての例で、Agentforce は半自律型のチームメイトのように機能します。LLM を活用した論理を用いて問題を熟考し、自然言語に対応し、ステークホルダー間のつながりを促進します。
まとめ
推論エンジンの基本を理解できた今、このテクノロジーに多くの企業が投資している理由は明白だと思います。現実世界の問題に人間のように取り組む方法により、AI は意欲的なプロフェッショナルチームと連携し、信頼できる効率的で簡易なソリューションを提供して、ビジネス目標を達成できるようになりました。
次は、Salesforce 推論エンジン Atlas について説明します。