ビジョンの策定
学習の目的
- コンテキスト調査がマイクロモーメントの識別にどう役立つかを説明する。
- 逐次使用の概念を定義する。
- モバイル化の機会を明らかにする調査を実施する。
- モバイルアプリケーションおよびサービスのアイデアを識別して優先度を付ける。
ユーザーを調査する
モバイル戦略のビジネス目標は決まりました。一方、組織の目標についてはまだ構成要素が残っているため、モバイルビジョンは不完全です。ユーザーについてはどうでしょうか? ユーザーの目標は何ですか? この単元では、モバイル戦略の次の構成要素である「ユーザー価値」を取り上げます。
すでに学習したように、マイクロモーメントはモバイルの潜在力を解き放つためのカギになります。モバイルユーザーに価値をもたらすには、そうした瞬間を予測し、即座に有用でコンテキストに沿ったソリューションを提供する必要があります。では、マイクロモーメントを予測するにはどうすればよいでしょうか? 水晶玉を使いますか? 読心術のスキルを身に付けますか?
- 顧客があなたの商品やサービスをどのように見つけるか知っていますか?
- 何が購入を決断させるのですか、その購入プロセスはどのようなものですか?
- あなたの会社を利用し続ける決断に影響を与えるのはどの要因ですか? また購入する決断についてはどうですか?
- どのように支援を求めますか?
- あなたのブランドにどのように引き付けられていますか?
顧客は、ライフサイクルのどのフェーズでも、スマートフォンに手を伸ばす可能性があります。その可能性が最も高いのはどの時点でしょうか? また、何を成し遂げようとしているのでしょうか? ユーザーのコンテキスト、行動、意図を本当に理解するまで、適切なモバイルソリューションを見極めることはできません。
マルチデバイスを考慮する
これは複雑な要因です。Google の「The New Multi-Screen World (新しいマルチスクリーンの世界)」という調査では、ユーザーはスマートフォン、タブレット、コンピューター、テレビというお気に入りのデバイスすべてにそれぞれ時間を費やしています。この調査では次のことが判明しています。
- 消費者の 90% は 1 日を通してあるスクリーンから別のスクリーンに移動する。
- ユーザーの 90% は 1 つの目標を達成するためにデバイス間を移動する。
- 特定の時点で使用するために選択するデバイスは、コンテキストによって決まる。
つまり、ユーザーはスマートフォンで活動を開始し、同じ活動をラップトップで完了する可能性があるということです。これは逐次使用 (sequential usage) と呼ばれます。コンテキスト情報を明らかにすることが重要なのは、まさにこのためです。
たとえば、顧客のショッピングプロセスで、まずスマートフォンで閲覧と調査を行うが、購入は実店舗でする傾向がある場合などです。それはモバイル戦略にどう影響を与えますか? ユーザーのコンテキストと意図に関して重要なデータを見落とすと、最適なモバイルソリューションを提供できません。
適切な調査を行う
コンテキストデータの収集に関しては、調査方法はさまざまです。多くの企業は、アンケートや Web 分析など、定量調査を優先します。定量調査は数値やトレンドに関するもので、ある程度は役に立ちます。ただし、特定のコンテキストにおけるユーザーのニーズや意図に関する詳細を調べる場合には不足です。
- 民族誌的調査: 民族誌的調査の最も一般的な 2 つの種類はインタビューと観察です。どちらもユーザーについて知り、特定のコンテキストにおけるその目標と行動に関する詳細を発見するのに役立ちます。これらの方法についての詳細は、「UX Research Basics」(ユーザーエクスペリエンス調査の基本) モジュールを参照してください。
- カスタマージャーニーマップ: ジャーニーマップとは、顧客が会社と関わるときに行うステップを示す図です。一般に、ジャーニーマップでは、カスタマージャーニーの最初から最後まで各フェーズの全タッチポイントを追跡して、顧客のライフサイクルを全体的に把握します。例とガイダンスについては、「リソース」セクションのリンクを参照してください。
モバイル化の機会を見つける
ビジネス目標を定義し、ユーザー調査を実施したら、次のステップ「モバイル化の機会の識別」に進むことができます。本当の魔法はここで起こります。
ビジネス目標に留意しながら、コンテキスト調査の結果を分析します。ユーザーの目標は何ですか? モバイルはユーザーのライフサイクルにどう当てはまりますか? このプロセスを進めるうちに、ユーザーのモバイルニーズが組織のモバイル目標と重なる領域が見つかります。
ありました! モバイル化の機会が見つかりました! いくつか例を挙げましょう。組織の目標とユーザーの目標を統合するプロセスを理解するのに役立つでしょう。
対象者 | 目的 | 関連ユーザーエクスペリエンス | モバイル化の機会 |
---|---|---|---|
アパート管理会社の顧客 | 顧客維持率を高める | テナントは複雑で旧式のメンテナンス要求システムにストレスを感じている | テナントがサービス要求を簡単に作成して追跡できるモバイルアプリケーション |
大手小売企業の顧客 | 顧客ロイヤルティを高める | 顧客は特典カードを持ち歩きたくないが、持参しないとさまざまな販売プロモーションを逃してしまう | 顧客と特典を追跡し、位置情報または時間ベースのプロモーションをプッシュするロイヤルティモバイルアプリケーション |
従業員 | 従業員の生産性を高める | 従業員がタイムリーに承認を送信できず、処理の遅延につながる | 従業員が外出先で要求を送信および承認できる承認モバイルアプリケーション |
従業員 | 従業員の満足度を高める | 従業員が簡単に同僚とコラボレーションできない、質問への答えが得られない | 従業員がコラボレーション、アイデアの交換、ネットワーク活動をできるようにするモバイルアプリケーション |
モバイルのアイデアに優先度付けする
モバイルソリューションのアイデアが浮かび始めたら、機会はあらゆる場所にあることがわかるでしょう。従業員向けアプリケーション! 顧客向けアプリケーション! パートナー向けアプリケーション!
少し落ち着きましょう。こうしたプロジェクトすべてを一度に開発することはできません。小さく始めます。厳しく選び抜きます。どのモバイルソリューションが最も有意義な結果をもたらすかを判断しようとするときには、次の点を考慮します。
- ビジネス価値
- 組織のモバイル成熟度
- 市場機会
- 実装しやすさ
- セキュリティ要件
- 製品化のスピード
- リソースの対応可能状況
- ユーザーの採用しやすさ
- グローバル要件
モバイルの各アイデアをこれらの要因に対して重み付けし、優先度を付け、プロジェクトのバックログを作成します。そうすることでビジョンが明確になります。モバイルジャーニーは、バックログの最初のアイデアで始まります。これで、モバイルの世界征服に 1 歩近づきました。
モバイル戦略のビジョンを作成できたので、次はその実行方法を見つけます。モバイルアプリケーションをゼロから作成するには何が必要かを見てみましょう。次の単元では、モバイルプロジェクトの設計と開発に必要なさまざまなツール、テクノロジー、リソース、プロセスを考慮した計画を組織で作成するにはどうすればよいかを学習します。