他者への影響力を発揮する
学習の目的
この単元を完了すると、次のことができるようになります。
- 自分にとって自然な影響力のスタイルを特定する。
- 適切な影響力のスタイルを使用するタイミングを判断する。
- 効果的に影響を与える戦略を学ぶ。
- インフルエンスプランを策定する。
はじめに
Patrick の所属する財務チームは、従業員が経費申請に使用する新しいシステムを導入しました。これで一安心です。現行のシステムにずっと文句を言っていた従業員たちはどんなに喜ぶことでしょう。
新しいシステムをロールアウトするために、Patrick は全社に向けて、この変更を発表する Chatter を投稿しました。この投稿に財務チームは皆 [いいね!] をクリックしましたが、他の従業員からは、すぐに抗議が投稿され、新しいシステムの使用を拒否されました。Patrick や他の財務チームメンバーは、新しいシステムが前よりもずっと良いものであることを知っています。いったいどうして、こんなことになったのでしょう?
Patrick は、新しい取り組みをロールアウトするときに常に重要なことを忘れていたのです。それは、顧客に焦点を当てるということです。Patrick のケースでは、顧客は内部顧客、つまり自社の従業員です。
Patrick や他の財務チームメンバーはいくつかの大きな間違いを犯しました。次のことを行わなかったことです。
- 経費申請の再設計において、設計に従業員を関与させる
- 従業員の協力または賛同を得る
- 事前にプロジェクトについてのコミュニケーションを行う
そうする代わりに、システムを優れたものにすることや、市場に早く提供することに気を割いていました。変化をもたらすときには、他者に影響を与え、関与させることがいかに重要かということが忘れられていたのです。
- Patrick のような状況になったことがありますか?
- マネージャーとして成功するために、他者に影響を与えることはどのくらい重要だと思いますか?
チームを率いて成果を出すためには、部門の垣根を越え、場合によっては海を越えて、他者に効果的に影響を与え、うまく連携できるかどうかが、これまで以上に重要な鍵となります。ビジネスはますますグローバルになり、組織はますますフラットになっているため、直属の部下ではない人に影響を与える必要がある可能性が高いのです。それは難しいことですが、ご安心ください。この先にヒントがあります。
影響力のスタイル
次のことを行いましたか?
- 自分のアイデアを提案して、他の人からの意見を聞いた。
- データと論理を使用して誰かを説得した。
- 権力のある地位を利用して成果を出した。
- 合意に達するように取引を行ったり妥協したりした。
おそらく、これらの方法を組み合わせて使用したのではないでしょうか? 他者の考えや行動に影響を与えるために、あなたが使用する方法が、あなたの影響力のスタイルです。
あなたが他の大半のマネージャーと同じであれば、いつも同じ影響力のスタイルに頼ることがおそらく多いでしょう。問題なくやっていることを変える必要はないですからね。自分がよく使うスタイルを他の人があなたに対して使用するのも高く評価するかもれません。
ただし、考えてみてください。あなたがよく使う方法は、すべての人に対してうまくいきますか? タイミングが異なる場合はどうですか? 状況が異なる場合は? おそらく無理でしょう。重要なのは、相手に合ったスタイルを適切なタイミングで使用する方法を学ぶことです。
自分にとって自然な影響力のスタイルについて興味がありますか? 信頼と影響力パックにある Influencing Styles Self-Assessment (影響スタイル自己評価) に回答することで、どのスタイルを最も頻繁に使用するかがわかります。
Google で「他者に影響を与える最良の方法」と検索したことがあれば、おそらく何百もの異なるモデル、方法、フレームワークが表示されたことでしょう。それらの大半のものに価値がありますが、最もうまくいく方法はどれでしょう?
Salesforce では調査の結果、さまざまな方法を次の 5 つのスタイルにまとめました。
自分の自然なスタイルを知れば、影響力を与える方法を増やすために他のどのスタイルを学べば良いか、考えやすくなります。
下の表にある質問に答えて、どのスタイルが最もあなたらしいかを見つけてみましょう。
スタイル | 自分への質問 |
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協力型 |
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断定型 |
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分析型 |
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協調型 |
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鼓舞型 |
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それぞれの影響力のスタイルをいつどのように使用するかを見てみましょう。各スタイルには、長所と短所があることを忘れないでください。では、「1.協力型」から見ていきます。
適している状況 | ヒント: |
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協力的に進めるには、時間がかかります。リスクが大きく、成功するために他者からの協力やサポートが必要な場合には、そうする価値があります。ただし、もっと緊迫した状況で、民主的であることよりも、よりすばやい意思決定を行うために権力を行使することが必要とされる場合には、断定的な手法の方が効果的でしょう。
適している状況 | ヒント: |
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断定的になることで、すばやい行動が可能になります。場合によっては、明確で直接的になることが重要です。リーダーらしい行動です。ただし、他者の意見を尋ねる必要がある場合にそうしなければ、思わぬ結果を招く場合があります。このスタイルに頼りすぎたり、適切でない状況で使用したりすると、人間関係において信頼を損ねる場合があります。
断定型のスタイルを使用する必要がある場合には、データや事実によって意思決定を裏付ける用意が必要な場合もあります。その場合には、分析型のスタイルとの組み合わせが有効です。
適している状況 | ヒント: |
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「客観的な」データには反論するのが難しいものです。分析型のアプローチを成功させるには、事前準備をしっかりして、必要な事実をすべて揃えましょう。
論理を好む人にはこの手法が最良だと思えるかもしれませんが、誰も彼もに対してスタートレックのミスタースポックのような態度を取ると、あなたが想定していなかったような感性や視点を持つ人たちを遠ざけることになる場合があります。ミスタースポックとカーク船長だって、ときには妥協しなければならなかったのですからね。
では、協調型を活用すべき状況をみてみましょう。
適している状況 | ヒント: |
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協調的であることは、問題について特に強い立場や感情が伴う場合に溝を埋めるのに最適な方法です。交渉がうまい人がやるように、まずは相手が何を必要としているかを知ろうとすることです。これが、両者にとってメリットがあるソリューションを提案する糸口になります。もちろん、交渉の余地がないことについては妥協しないように気を付ける必要がありますが、可能な事柄については柔軟に対応します。
ここまで読んで、「ここに挙げられているスタイルはすべて試したものの、まだうまくいきそうにない。」とお考えの方がいるかもしれません。ときには、他者の心をつかむために、更にあと少しだけ必要なことがある場合があります。そんなときには鼓舞型のスタイルが役立つかもしれません。
適している状況 | ヒント: |
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鼓舞型のスタイルを使用して他者に影響を与えることができれば、大きな満足感が得られます。「私にはカリスマ性がない」とか「他の人の心を動かすという性格じゃない」などと言い訳するのはやめましょう。
あなただけのやり方で、説得力のある未来図を描いて、他の人の心を動かして賛同を得ることができます。話している内容に熱意を持っていれば、きっとその気持ちが相手に届くはずです。
5 つのスタイルについて理解できましたか? 自分が最も引き付けられるスタイルが認識できましたか? すべての状況に対応できる万能なスタイルというものはないのです。他者に影響を与えようとして行き詰まったときには、自分の影響力のスタイルを柔軟に変更する必要があるかもしれません。大抵の場合、どのスタイルまたはその組み合わせが有効であるかは、背景事情や組織の文化によって決まります。
影響の戦略
では、どのスタイルあるいはスタイルをどの組み合わせで使用するのかはどのように判断するのでしょうか?
マーケティングチームのエースで、商品チームに対して多大な影響力を発揮した Sonia の例を見てみましょう。彼女はどのように対応したのでしょうか?
Sonia が率いるマーケティングチームは、Salesforce の最新クラウドアプリケーションに関するキャンペーンの素晴らしい企画を考案しました。同チームがこの最新キャンペーンの実現に向けて意気揚々としている中、Sonia はクリエイティブサイドの説明に商品チームや他の人々が抵抗を示すかもしれないと考えていました。このキャンペーンは商品発売の成否を決めるものであったため、Sonia は円滑に進める必要がありました。
Sonia はどのように対処したのでしょうか? まず Sonia は、相手が最も望ましい対応をしてくれるのは、キャンペーンの進め方を事後連絡した場合ではなく、その取り組みに誘い込んだ場合であることを知っていました。また、相手の長期的な賛同や確約が極めて重要であることも理解していました。Sonia には自分がどうしたいかの明確な見解がありましたが、ある程度は妥協する用意もありました。そのため、影響力の協力型と適応型のスタイルを組み合わせることにしました。
協力型のスタイルを使用した行動
- 直接話し合う機会を設けて、商品チームが考えや懸念を率直に伝えられるようにした。
- 相手の発言に耳を傾け、質問をし、妥協点を見出すことに努めた。
- お客様を一番に考えるという共通目標を特定した。
適応型のスタイルを使用した行動
- いくつかのオプションを示し、相手のフィードバックを勘案した。
- 説明に変更を加え、全員が承認できるようにした。
実践演習
ではここで、上記の内容を実際に試してみましょう。影響力の戦略を試してみたいと思う重要な相手やプロジェクトがいくつか思い浮かぶのではないでしょうか。どのように行うかを熟慮し、その考えを書き出すテンプレートも用意されています。
検討する内容は次のとおりです。
- パフォーマンス目標
- 状況
- 関係者
- 企業文化
- 使用する影響力のスタイル
パフォーマンス目標
一歩離れて、年次目標に目を向けます。Salesforce では、Vision (ビジョン)、Value (価値)、Methods (方法)、Obstacle (障害)、Measures (測定) から成る V2MOM という手法を提唱しています。これは、目標を設定し、連携と説明責任を生み出す Salesforce のやり方です。
あなたにも達成しようとしている大きな目標があるのではないでしょうか。あなたの大きな目標のうち、達成するためには他者に影響力を発揮する必要があるものは何ですか? すべての目標が該当する場合は、最も重要な最大目標をこの演習で取り上げます。
状況
あなたには取り組みたい目標があります。状況とは、目標が具体的にどういうもので、達成するには何が必要かというストーリーまたはコンテキストです。Salesforce でいう状況は、通常、V2MOM の「方法」あるいは「障害」に該当します。
次のような質問を自問してみてください。
- この目標を達成するためにはどのようなことが必要か?
- 誰が関与する必要があるか (関係者)? どのような形で関与するか(報告、相談、説明責任)?
- この目標を達成するためにどのくらいの時間が必要か(四半期、6 か月、1 年、それ以上)?
- この目標を実現するためにどのような事実や情報が必要か?
- この目標を達成するうえでの障害物は何か?
関係者
「状況」で特定した人々について、どのようなことを知っていますか?
- こうした人々との現在の関係はどのようなものか(強固な結びつきのある/信頼できるパートナー、関係の薄い人、新たな関係者)?
- これらの関係者に協働してもらう最善の方法を認識しているか?
- あなたが達成しようとしている目標について関係者はどの程度認識しているか? 関係者は目標に関してどの程度の専門知識があるか?
- 関係者はデータ、信頼性、ストーリー、感情、インスピレーションなどの影響を受けるか?
- 関係者はどの程度のコラボレーションを望んでいるか?
企業文化
自社では影響力のどのようなスタイルや戦略が最も適しているか認識していますか?
自社で影響力を発揮する場合
- 何を知っているかよりも、誰を知っているかのほうが重要か?
- 関係構築に投資することで、業務を迅速かつ効率的に遂行することができるか?
- 他者に影響力を効率的に発揮できるのは、どちらかとえばカリスマ的である場合か、どちらかといえば寡黙である場合か?
- 権威の高さによって影響力の程度が異なるか?
- 職位に付随する権力を利用して必要なことを他者に行わせることができるか? あるいは、行わせるべきか?
上記の質問に対する答えに自信が持てない場合は、影響力に関する社内事情や社風に詳しい人に、思い切って相談してみてください。
使用する影響力のスタイル
これまでに、目標、状況、関係者、文化、最も適したスタイルについて熟慮してきました。
それぞれのスタイルやスタイルの組み合わせをどのような場面で使用するか確認する場合は、信頼と影響力パックに含まれている Influencing Styles Cheat Sheet (影響力のスタイル早見表) を参照します。
プランを作成する準備はできましたか? 信頼と影響力パックに含まれている Influencing Planning Tool (影響力の計画作成ツール) を使用します。
ここまで読んで、成功する上で他者に影響力を発揮することの重要性がよく理解できたのではないでしょうか。その目的は、他者の思考や行為の方向性を示しながら、あなたのアイデアや解決策、決定、提案などへの賛同を得ることです。
最初に、どのようにして影響力を自然に発揮していくかに注意を払い、続いて、相手や状況に合わせて自身のスタイルや戦略を対応させていくことを検討します。そして、影響力についてのノウハウを、新たに身に着けた信頼構築に関する知識と組み合わせます。チームに対する理解を深め、オープンなコミュニケーションを心がけ、過ちを率直に認めて、最後までやり遂げます。
信頼や影響力のベストプラクティスをすべて実践すれば、チームが目標を達成する可能性が大幅に高まり、ビジネスに利益がもたらされ、コラボレーションやイノベーション、学習を促す環境が築かれます。健闘を祈ります!
リソース
- Influencing Styles Self-Assessment (影響力のスタイル自己評価) (信頼と影響力パック をダウンロード)
- Getting to Yes: Negotiating Agreement (ハーバード流交渉術: イエスを言わせる方法)
- What's Your Influencing Style? (あなたの影響力のスタイルはどれですか?)
- Exerting Influence Without Authority (権力によらない影響力の発揮)
- Marc Benioff: How to Create Alignment Within Your Company in Order to Succeed (Marc Benioff: 成功するための社内連携の作成)
- Influencing Styles Cheat Sheet (影響力のスタイル早見表) (信頼と影響力パック をダウンロード)
- Influencing Planning Tool (インフルエンスプラン策定ツール) (信頼と影響力パック をダウンロード)