従業員維持への取り組み
学習の目的
この単元を完了すると、次のことができるようになります。
- エンゲージメントの問題に対処する選択肢を挙げる。
- ディスエンゲージメントの会話を行うための手順と戦略の概要を説明する。
- 重要な従業員の引き留めに利用できるさまざまな種類の報酬について説明する。
エンゲージメントの問題の根源を見つける
自転車に乗ったことがあれば、チェーンが外れ、まったく前に進めなくなり、突然止まってしまったという経験があるでしょう。チェーンとスプロケットがかみ合うようにし、再びすべての構成部品を連動させるには、次の 3 つのいずれかを行う必要があります。
- 自分で修理する。
- 知り合いに試しに修理してもらう。
- 専門店に持っていって元に戻してもらう。
なんと、同じ方法を、ディスエンゲージしている従業員をもう一度エンゲージさせるために適用できます。何が原因で物事がうまく行かなくなったかを解明し、再び順調に進めるように必要な手順を実行する必要があります。
当然、マネージャーの仕事として決して楽しいものではないでしょう。思いもよらない難題が生ずる場合もあります。そして場合によっては、知り合い (あなたのマネージャー) や業者 (人事ビジネスパートナー) を呼んで助けてもらう必要があります。ただ、物事を円滑に進める最善の方法は、前もって協力して対処することです。では、それを念頭に置いて修理を始めましょう。
ディスエンゲージメントの会話を始める
あなたはすでに 1 対 1 ミーティングを行い、形式張らない会話を心がけ、メールを送信し、エンゲージメントのツールとおぼしきものはすべて使いました。それでもまだ、あなたの部下はディスエンゲージしています。さてどうしましょうか?
ディスエンゲージメントについて、正直で率直な会話をするときが来たようです。この会話は、あなたとチームメンバーのどちらにとっても難しいものになる可能性があります。常に広い心を持ち、言うべき内容を事前に準備しておくことが重要です。「言うは易し、行うは難し」とお考えかもしれませんが、そのためのヒントをいくつかご紹介しましょう。
- 会話を設ける事情を共有する。従業員が、組織内での自分の位置付けや自分の役割が重要な理由を認識していることを確認します。また、マネージャーとしてあなたがその従業員の努力を評価していることも伝えます。会話をする理由を話し、話し合いの目的について相手が不安を感じないようにします。
-
質問をする。個人的な質問と仕事関連の質問のバランスを取って、潜在的なエンゲージメントの阻害要因を明らかにします。次のような質問を使って会話を進めます。
- 状況について教えてください。何がうまく行っていないのですか?
- 別のプロジェクトで働きたいですか?
- 自分の仕事で気に入っている点は何ですか?
- ここで働くことにした理由と、ここで働き続けている理由を教えてください。
- 仕事に完全にエンゲージしていたときのことを考えてください。その要素を現在の仕事に取り入れることはできますか?
- 自分のキャリアから抜け出したい原因は何ですか?
- 具体例を提示する。具体的に該当する出来事やプロジェクトについて話し合います。具体的な例をいくつか用意しておくと役立ちます (特に、従業員があなたの懸念に驚くと思われる場合)。
- 過去を参照する。以前のエンゲージメントの会話でのコメントを参照することを検討します。あなたが相手の懸念事項に注意していて、対処することを積極的に検討していたことを示すと、エンゲージメントが飛躍的に高まります。
- 耳を傾ける。従業員の答えに耳を傾け、メモを取り、解決策を見つけようと時間と労力を投じていることを伝えます。相手の感情の発生源を探すことで、その不満に対処できる可能性があります。
さらにヒントが必要な場合は、従業員のよくあるフラストレーションから実施可能な変更を導き出す方法として次のようなものがあります。
相手の発言 |
できること |
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「キャリアパスを見失ってしまいました。」 |
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「誰も私の仕事を気にかけていません。」 |
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「私はあまりにも長い間同じことをしています。」 |
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「今の仕事に向いているかどうかわかりません。」 |
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「気分転換が必要です。」 |
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「私はマネージャーになりたいのです。」 |
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「会社を辞めます。」 |
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マネージャーには、フォローアップミーティングをスケジュールして、従業員の進捗を確認する責任があります。特に、従業員がディスエンゲージしている場合はこれが必要になります。ぎっしり詰まったスケジュールにもう 1 つ予定が追加されるだけだと思うかもしれませんが、この会話を始めることで、あなたが懸命に従業員をチームに引き留めようとし、従業員が満足できる生活を送れるように気にかけていることが伝わります。
会話の最後に、重要な従業員がまだ不満を感じているなら、いよいよ「知り合い」に連絡して助けを求めます。念のために述べておくと、このステップに進むことは経験不足や能力不足の現れではありません。むしろ、人事ビジネスパートナーやシニアマネージャーが次のことを行えば、あなたは多くの重要事項をじっくり考えられるようになります。
- 過去のパフォーマンス情報を確認して、新しいプロジェクトまたは役割に適用できる強みを識別する
- 社内で水平異動可能な職務を見つける
- 成長および能力開発の機会を確認する
- この単元ですでに取り上げた「質問をする」セクションにある質問を使用して「慰留の面接」を実施する
他の情報や選択肢を用意して従業員にアプローチし、会社に留まるように働きかけることができます。この会話の後、従業員がまだ不満を感じているならば、本当に新しい仕事を見つけるべきときなのかもしれません。これを判断するために、もう 1 回率直な会話をします。ただし今回は自分自身との会話です。
次の要素について考えます。
- この従業員のパフォーマンスはどの程度よかったのか?
- この従業員が離職した場合、顧客との関係にリスクが生じるか?
- 必要な場合にうまく参加できる別の従業員がいるか?
- この従業員が同僚に与える影響はどの程度か?
- この従業員を失った場合、他のメンバーに悪影響があるか?
- この従業員の代わりを見つけるのはどの程度難しく、コストがかかるか?
- この従業員のスキルと知識はどの程度重要か?
- 他の従業員は同じスキルと知識を持っているか?
こうした質問に答えることで、従業員の維持対策を実施するのか、あきらめるのかを適切に判断できます。誰かを送り出すのは容易ではありませんが、個人、チーム、および会社を前進させるためには避けられません。パフォーマンスか適性に関係なく、いずれかまたは両方の当事者に先へ進むための妥当な理由があれば、それが適切な解決策です。この判断を下す前に必ず人事ビジネスパートナーに連絡し、次のステップについて相談してください。
または、この重要なチームメンバーを引き留めることが優先事項である場合は、どうやって引き留めるのかを考える必要があります。
従業員維持対策の実施
人事ビジネスパートナーおよびチームのシニアリーダーと相談し、全員がそのチームメイトの引き留めは必須だという点で合意しました。維持の会話では従業員に調整および合意済みの選択肢を提示する必要があるため、人事ビジネスパートナーとシニアリーダーからの賛同を得ることが重要です。人事やマネージャーと調整していない選択肢を従業員に提示した場合、後から失望、怒り、および漠然とした不公平感が湧いてくる可能性があります。
従業員が重要な貢献者であり、マネージャーから見て成長の可能性がきわめて大きい場合、当然、給与の調整や維持ボーナスが検討されるでしょう。報酬の種類とそれぞれに適した状況を次に示します。
報酬の種類 |
内容 |
適切な状況 |
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給与の調整 |
成長の可能性を示している重要な従業員向けの能力ベースの給与調整 |
|
一時ボーナス |
抜きんでたパフォーマンスに対する 1 回限りのボーナス支給 |
従業員がプロジェクトまたは特定の作業において卓越していた。 |
維持ボーナス |
きわめて有能な人材を引き留めるための 1 回限りのボーナス支給 |
従業員がビジネスにとって不可欠な専門的スキル、人間関係、および専門知識を持っている。 |
株式 |
きわめて有能な人材、広く影響力を持つ従業員、または重要な役割に対する株式による報酬 |
従業員がきわめて有能な人材か、重要な役割にあり、維持することがビジネスの成功にとって不可欠である。 |
上記のいずれかの選択肢を進める前に、次の人に相談し、承認を得る必要があります。
- 自分のマネージャー
- 人事ビジネスパートナーと財務マネージャー
- 報酬マネージャー
また、人事ビジネスパートナーまたは財務チームにはおそらく、こうした選択肢を検討するための手順が定義されています。つまり、約束をタイミングよく果たすには、従業員に条件を提示する前に彼らと調整しておくことがきわめて重要です。
それだけではありません。次のような社会または福利厚生ベースの手段を使用して報酬パッケージを改良することもできます。
- 休暇
- フレックス勤務
- サバティカルオプション
- 従業員支援プログラム (会社で提供されている場合)
報酬は金銭だけではないということを覚えておいてください。維持の会話では、こうした直属部下の個人的なニーズに配慮した他の選択肢で、相手にサポートされているとより強く感じさせることもできます。