意図を持ったフィードバックの提供
学習の目的
この単元を完了すると、次のことができるようになります。
- フィードバックを行うときに自分の意図と受け手の意図を評価する。
- 成長型マインドセットを取り入れることの重要性を説明する。
- 知的好奇心がフィードバックの文化にどう影響するかを説明する。
善意によるフィードバック
フィードバックを行うときも、受けるときも、最も重要でありながら難しい側面の 1 つとなるのが、どちらの側も良い意図を持って、つまり善意から行うようにすることです。
自分が行う側で、相手にうまく受け入れられたフィードバックについて考えてください。また、自分が受ける側で、喜んで受け入れ、有益だと感じたフィードバックについて考えてください。おそらく、あなたと相手の関係は、信頼と相互の敬意や理解の上に築かれています。
一方、フィードバックを行ったものの、うまく受け入れられなかったことがありませんか? また、フィードバックを受けたものの、有効とは思えなかったり、フィードバックの出所を疑問に感じたりしたことはありますか? こうしたことは、私たちすべてが経験しています。
厳しいメッセージの場合でも、善意を持ち、最善を尽くしてメッセージを伝えたり、受け入れたりしようとしているかどうかを考えることが重要です。
ただし、行う側や受ける側が特定のマインドセットに捉えられてしまうと、善意があってもうまくいきません。
行う側 |
受ける側 |
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こうしたマインドセットから抜け出すのは簡単ではありません。長い間このように考え続けてきた場合はなおさらです。このパターンから抜け出して、意図をより明確で肯定的に表現するにはどうすればよいでしょうか?
もちろん、長期にわたって互いへの信頼を築くためにあらゆる努力をする必要がありますが、それに加えて、フィードバックの前、フィードバック中、フィードバック後にもできることがあります。
方法の 1 つは、フィードバックを行う側、受ける側の視点で自分に簡単な質問をすることです。そして、こうした質問への答えを念頭に置いてフィードバックをやり取りします。
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行う側 |
受ける側 |
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会話の前 |
フィードバックを行う準備をするときに、次の点を検討します。
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フィードバックを広く受け入れるために、次のように自問します。
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会話中 |
コンテキストを設定し、意図を明確にします。
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自分自身に次のことを尋ねてみてください。
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会話の後 |
次の方法で相互理解に達します。
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次の質問を使用して考えます。
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継続的な改善をベースに人は向上できるという信念に重点を置いたフィードバック
継続的な改善
善意を示すもう一つの方法は、人は継続的に改善し、新しいスキルを学び、最終的に向上できるという心からの信念を明らかにすることです。例を見てみましょう。
Julia の最初のセールストーク
Julia が顧客へのセールストークを行ったばかりだとします。Julia は、最初に質問をして顧客のニーズを把握することをせずに、製品機能の宣伝から始めてしまいました。マネージャーの Roxanne からフィードバックを受けた後、次のセールストークで Julia は確かに質問をしながら話を進めましたが、適切な質問ではないものがありました。
Julia の次のセールストーク
Julia がその次に顧客へのセールストークを行ったときには、すばらしい質問をしましたが、リスニングスキルを最大限に発揮していませんでした。Roxanne がリスニングについてフィードバックを提供した後、Julia は次のセールストークにこれまでのすべてのフィードバックを活用することができました。適切な質問をし、優れたリスニングスキルを発揮し、顧客のニーズを満たす最適な商品を紹介することができました。
継続的な改善の実現
各セールストークで、Julia はフィードバックに対応し、継続的な改善を実現しました。もちろん、初回の後ですべてを適切に行ったわけではありませんが、毎回調整と改善を行うことで、顧客と話をするたびに上達していきました。
Roxanne が Julia を支援した方法
Roxanne は、Julia が継続的に改善するのをどのように支援したのでしょう? 1 つの要点は、人はフィードバックを受けたときにすべてを実践して「停止状態から最高速度へ」一気に変化するものではないことを Roxanne が理解していたことです。
Roxanne は、Julia が間違ったことに焦点を当てるのではなく、顧客に話すたびに Julia が見せた小さな改善を認めました。初めに Roxanne は、ミーティングで質問をした Julia の改善を評価することで、その努力を認めました。次に、Julia がより適切な質問をした点で改善を認めました。最後に、Julia のリスニングスキルの上達を認めました。
Roxanne が Julia の努力と継続的な改善に着目したことで、Julia は自分のパフォーマンスの向上に取り組み続けることができました。また、Julia の Roxanne に対する信頼が高まり、Roxanne が本当に自分のためを思っていると信じるようになりました。
成長型マインドセット
Roxanne のように部下が学習し成長するのを支援することに成功するマネージャーがいる一方で、部下のパフォーマンスを改善できないマネージャーがいるのはなぜでしょう。
その原因の 1 つは成長型マインドセットと呼ばれるものです。心理学者 Carol Dweck 氏の造語である「成長型マインドセット」は、人は献身、勤勉、そして努力を通じて向上するという信念に基づいています。才能があって頭がよいだけでは十分ではありません。学習し成長する努力をすることで、誰もが向上する能力を持っています。
しかし、一部の人々は固定型マインドセットを持っています。そのような人は、知性や才能は固定的な特性であり、いくら努力しても、本来の知性と才能の限界までしかよくならないと信じています。
Roxanne と Julia の考え方はどちらだったでしょうか? もちろん、成長型マインドセットです。Roxanne と Julia のどちらかが固定型マインドセットを持っていたら、上記のシナリオはどうなっていたか考えてみてください。Roxanne は Julia が間違ったところだけに目を向け、フィードバックを行っても Julia はよくならないと考えたかもしれません。Julia は早い段階で「私がいくらやっても、うまくできるようにはならない。私には才能がないんだ。」と考え挫折していたかもしれません。
Roxanne と Julia の双方が、粘り強く失敗に負けずに努力し、全力を尽くすことで、問題を解決し、より多くの仕事を引き受け、学び、成長することができると考えていました。実際、成長型マインドセットの背後にある科学では、人が可能だと信じていないことを成し遂げようと努力すると、脳がより賢くなるように物理的に変化することが示されています。(Mind Your Errors: Evidence for a Neural Mechanism Linking Growth Mind-Set to Adaptive Posterror Adjustments.Jason S. Moser, Hans S. Schroder, Carrie Heeter, Tim P. Moran and Yu-Hao Lee Psychological Science 2011 22: 1484)
継続的な改善と成長型マインドセットに基づくフィードバックを提供するには、次の推奨事項を考慮してください。
すべきこと |
すべきではないこと |
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努力や小さな改善を認める |
何が悪かったかに焦点を絞ったり、すぐに完全な改善を期待したりする |
人は学習し、練習することで向上するという考え方を持ち続ける |
改善を助けようといくら努力しても人の能力は変わらないと決めつける |
フィードバックを学習と成長の機会と位置付ける |
フィードバックを適切に実行できなかったもう一つの例と位置付ける |
次のようなことを言いましょう。
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次のようなことを言わないようにしましょう。
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知的好奇心から行うフィードバック
「知的好奇心? くわしく教えてください!」
承知しました。簡単に言うと、知的好奇心とは、観察し、よく聞き、詳しく知ろうとすることです。フィードバックを行う側も受ける側も、『7 Habits of Highly Effective People』(『7 つの習慣』) の著者、Stephen Covey 氏が言うように「まず相手を理解するように努め、その後で相手に理解してもらえるようにする」ことが必要です。
問題は、自分に好奇心があると考える労働者が 22% 未満であることです。今日の従業員が、本質的に好奇心がないと言うわけではありません。むしろ、好奇心やイノベーションを抑圧する何かが職場で起きているのです。職場の好奇心に関する著名な研究者 Todd Kashdan 氏によると、企業は次の過ちをおかしています。
- 従業員が「なぜ」、「どのように」という質問をしづらくしている
- リスクを負う従業員を処罰する
- 命令と指揮、知ったかぶりの行動を取るマネージャーに報奨を与える
- 多様な視点を取り込むことを低く評価する
- 時間をかけた調査や研究よりも、仕事を早く終わらせることを評価する
こうした過ちに対抗するために、Liz Wiseman 氏のような研究者は、知的好奇心が積極性と生産性に及ぼす効果に着目しています。著書『Multipliers』(『メンバーの才能を開花させる方法』) で Wiseman 氏は、次の価値を明らかにすることで他者の知性、エネルギー、および能力を増幅させる方法を説明しています。
- 答えるのではなく、質問する
- 議論を奨励する
- 周囲の人の知性と能力を活用する機会を探す
Salesforce では、リーダーシップ開発プログラムに増幅型マインドセットを採用し、マネージャーに模範としてこれらの行動をチームや同僚に示すことを奨励しています。
これらは、フィードバックに関してはどのような意味を持つのでしょうか? フィードバックでは、(行う側として) 観察した内容、(受ける側として) 今聞いた内容を明確にするための質問をすることを意味します。心を開いて、フィードバックに臨みます。そしてじっくりと考え、効果的な質問を始めます。
フィードバックを行う側の質問: |
フィードバックを受ける側の質問: |
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この表を次回の 1 対 1 の面談で使用して、機械的にこれらの質問をすることはお勧めしません。相手が何を考えているか、どう判断を下すかについて真剣に好奇心を持ちます。フィードバックを受ける側の場合、フィードバックの出所とフィードバックから学べることをより深く理解するために掘り下げた質問をします。
フィードバックを新たなレベルに引き上げるには、模範となる行動を示します。相手が時間を取ってあなたのパフォーマンスに関するフィードバックを提供する場合、決して守りに入ったり、心を閉ざしたり、あきれたりしないでください。質問をし、質問に答え、フィードバックという贈り物をしてくれたことに感謝します。模範となって、好奇心がどう成長を促し、キャリアを進展させるかを示します。
ここでは、フィードバックを共有するときには、行う側と受ける側の意図が非常に重要であり、また、あらゆることの可能性を信じ、パフォーマンスを向上させるために成功型マインドセットが双方にとってどう役立つかを学習しました。ただし、フィードバックの文化を活性化するには、フィードバックをあらゆる方向 (上、下、横) に向けて行う必要があります。また、フィードバック時に偏見がないか常にチェックすることが求められます。これについては次の単元で詳しく取り上げます。
リソース
- Carol Dweck 氏の著書『Mindset』(『マインドセット「やればできる!」の研究』)
- Mind Your Errors: Evidence for a Neural Mechanism Linking Growth Mind-Set to Adaptive Posterror Adjustments (エラーに注意: 成長型マインドセットを適応型のエラー後調整にリンクさせる神経機構の兆候)
- Multipliers (『メンバーの才能を開花させる方法』)
- 5 Ways to Cultivate Curiosity and Courage in the Workplace (職場で好奇心と勇気を培う 5 つの方法)