顧客の識別
学習の目的
この単元を完了すると、次のことができるようになります。
- 対象市場を判別する方法を説明する。
- 対象市場内の顧客の主要属性を挙げる。
- アプリケーションが顧客のニーズにどう対処するかを明確にする。
- ビジネス目標に合わせて顧客をさらにセグメント化するかどうかを判断する。
ビジネス基盤を構築する
アイデアは素晴らしいのに、製品として市場に出せずに終わった起業家もいます。皆さんにはそうなってほしくありません。Salesforce では、皆さんが技術とビジネスの両面で成功することを願っています。
経験から、成功する AppExchange パートナーには技術的な計画を補うビジネス基盤があることがわかっています。技術者がテクノロジー面で懸命に努力している間、協力して製品のマーケティングと販売の基盤を築きましょう。
まず、製品の販売対象として最も成功が見込める顧客セグメントを識別します。
成功に向けて営業努力を集中させる
「私のアプリケーションは凄い! 誰もが買いたがるだろう!」自社の製品に強い思い入れを持つのは素晴らしいことです。しかし、起業時に広く一般の利用者に向けて製品を発売することは難しく、失敗することも少なくありません。
ビジネスを軌道に乗せるには、アプリケーションを購入しそうな顧客ベース、つまり対象利用者を識別することに注力します。対象利用者の特性とビジネス上の課題を把握します。このアプローチを取る ISV パートナーには、次のような変化が見込まれます。
- リード成約率が高くなる
- 営業サイクルが短くなる
- 契約獲得数とそれに伴う成功事例が増える
- 熱心な愛用者で構成される顧客ベースができる
なぜこのアプローチに効果があるのでしょうか? このアプローチでは、チーム全体、特に営業チームに方向性が示されます。また、ビジネスで使用可能な要員とリソースの適材適所での利用が可能になります。
推奨するアプローチはよく知られているものです。次の図は、Steve Blank 氏の著書『Four Steps to Epiphany』(アントレプレナーの教科書) から引用した顧客開発モデルですが、ここでも類似のプロセスを推奨しています。
総市場を識別する
対象利用者を識別するには、まず総市場 (TAM: Total Addressable Market) を判別します。
理論的には、潜在顧客すべてに販売すれば、その売上金額が TAM ということになります。
では、企業は何によって潜在顧客と評価されるのでしょうか? たとえば、イベント管理の OEM アプリケーションを開発しているとします。20,000 社を超えるイベント管理会社があり、それぞれに平均 100 名の従業員がいると仮定します。ユーザーあたりの月額料金を 17 ドルにすると、TAM は 3,400 万ドルになります。
TAM を判別するときには、潜在顧客の分析から始めます。次に、架空のデータを使用したイベント管理アプリケーションの例を示します。もちろん、総額を見積もっています。
製品が対応可能な市場の規模によっては、TAM が小さすぎることが判明するかもしれません。製品を開発した後ではなく、今それが判明した方が影響ははるかに少なくなります。
有効市場を識別する
該当分野における競合他社を考慮すると、どの程度の TAM を獲得できるでしょうか? それが有効市場です。
イベント管理アプリケーションの例に戻りましょう。既存のイベント管理アプリケーションとそれらの顧客数を判別します。創造力も働かせましょう。競争相手は、既存の競合他社だけではなく、顧客のアプリケーション購入を阻止する他のツールすべてです。たとえば、潜在顧客が自社開発のイベント管理アプリケーションを使用しているかどうかや、スプレッドシートでイベントを管理しているかどうかも判断します。
調査した情報をまとめる
有効市場を調査するときには、対象市場を識別する最終フェーズで使用する競合他社に関する情報を収集します。市場シェア、製品価格、市場セグメントなどの属性は、すべての競合分析に当てはまります。
競合製品が Salesforce をベースに構築されている場合、サポートするエディションと、Salesforce ネイティブか、別のプラットフォームでホストされるのか、ハイブリッドかを判別します。また、対象とする顧客セグメントと、自社製品との違いについても判断します。
自社製品に固有の属性も明確にします。たとえば、ビジョンで高度にカスタマイズされたモバイルソリューションに触れているとします。その領域を提供している競合他社を調べる必要があります。
スプレッドシートは簡単でありながら、この情報を追跡するのに効果的な手段です。
対象市場を識別する
次は、市場をさらに絞り込み、自社製品を競合製品と差別化します。
競合他社の属性
有効市場の判別で収集したデータを使用して、製品と営業の焦点を決めます。競合他社が提供できず、自社が提供できるものは何でしょうか? 前に作成したスプレッドシートを見ると、市場の約 65% が有効市場であることがわかります。以前に識別した TAM に関してデータを調べてみましょう。
中規模、大規模、およびエンタープライズ顧客分野での金額は、これらの領域が焦点とするのに適した市場であることを示しています。
顧客の課題
「このアプリケーションで~ができたらなあ」
「このアプリケーションは小規模ビジネスにはよいだろうけれど、当社にとっては~が足りません」
「当社のワークフローの約 2/3 については実によく対応できています。アプリケーションがすべてに対応できるまでお待ちしています」
「~ができなければ、このアプリケーションを購入することはないでしょう。当社のビジネスにとっては最も重要な点なのです」
こうしたコメントは、対象市場を識別するうえで非常に貴重です。潜在顧客との会話からこうしたコメントを収集します。使用するプロセス、それらのプロセスで最大の課題、最重視している点などを把握します。また、競合他社に関するインサイトを得られるコメントにも耳を傾けます。
話をした一部の顧客に、ベータ顧客になってもらえるよう依頼することを検討します。アプリケーションへの早期アクセス権を付与し、製品開発時のアドバイザーになってもらいます。
ビジネスサイクル
それだけではありません。ビジネスの予算と制約によっても対象市場が決まります。たとえば、予算がわずかしかない場合はアプリケーションを迅速に販売する必要があるため、購入サイクルの短い顧客が必要です。
市場を定義するときには次の質問を考慮します。
- 購入サイクルが最も短いのはどのセグメントか?
- 商談を最も成立させやすいのはどのセグメントか?
- アプリケーションを最も必要としているのはどのセグメントか?
- 個人的な人脈を利用できるセグメントはあるか?
イベント管理アプリケーションの例では、中規模、大規模、およびエンタープライズ企業を検討しています。次の図が営業サイクルを反映しているとします。
最初の製品は中規模企業に焦点を絞るのが妥当です。中規模企業の購入サイクルは 3 ~ 8 か月であるため、こちらの営業サイクルおよび売上予測とも合いそうです。
ただし、立案した営業サイクルの見直しも検討してください。重要なのは、顧客セグメントでうまく機能する実行可能な営業サイクルを開発し、売上収益を正確に予測することです。
他のすべての選択と同様に、予算とタイミングに基づいてメリットとリスクに重み付けをします。
顧客をさらにセグメント化する
とうとうここまで来ました! 次は、識別した対象市場の規模を見てみましょう。一度に販売を開始するには規模が大きすぎるでしょうか? 大規模な対象市場は将来的な成長の機会を与えてくれますが、営業チームが集中的に取り組むことが難しくなります。投資家は大規模な対象市場を好みますが、市場規模と効果的な営業戦略とのバランスを取ることが重要です。
対象市場が大きすぎる場合は、より早くビジネスの牽引力を獲得できるように次のカテゴリでセグメント化することを検討します。
- 地域または特定の場所
- 業種と下位業種
- 会社内の対象ユーザーベースの規模
- 対象市場が使用しているテクノロジー
当然、顧客セグメントが小さすぎることも考えられます。その場合は、営業チームの有効性に与える影響を最小限に抑えながらセグメントを拡げるにはどうすればよいかを検討します。
顧客像を把握する
集中すべき特定の市場セグメントを識別するという、難しい工程は終わりました。ここでは、典型的な顧客像を具体化します。これにより、すべてのチームがビジネスの成功に重要な意思決定を下しやすくなります。ここまで学んだことすべてを活かし、潜在顧客に連絡してその顧客に関する情報をさらに収集します。
次に、顧客のペルソナを作成することを検討します。ペルソナを会社全体で共有し、意思決定を下すときに全員がタッチポイントを持てるようにします。
成功です。
サマリー
ビジネス基盤の構築を始める手順は、次のとおりです。
- 総市場を識別します。
- 競合分析を実施して、総市場内の有効市場を識別します。
- 競合分析、顧客の課題、自社のビジネスサイクルを使用して、対象市場を見つけます。
- ビジネスニーズに合わせて顧客セグメントをさらに絞り込むか、拡張します。
その後で、チーム全体のガイドとなる顧客プロファイルを作成します。
目標は、エネルギーとリソースを集中して市場内の基盤を確立することです。ビジネスプランと市場開拓戦略を作成するときには、ここで行った作業を活かしてください。