次の 3 つの原則: コンテキスト、盗用、反ステレオタイプ
学習の目的
この単元を完了すると、次のことができるようになります。
- コンテキストの 2 つの重要なカテゴリについて説明する。
- 文化の盗用を避ける方法とステレオタイプに挑む方法を理解する。
この単元では、インクルーシブマーケティングの残りの 3 つの原則の社会的、歴史的、文化的な影響について解説します。
4.コンテキストの考慮
コンテキストの歴史的/文化的カテゴリと階層的カテゴリという 2 つのカテゴリを見ていきます。
定義: コンテキストとは、イベント (マーケティングの場合は 1 つのコンテンツ) の背景を伝える過去の状況です。
歴史的/文化的コンテキスト
マーケティングメッセージが孤立した状態で存在することはなく、そのコンテキストを考慮する必要があります。先頃、ある大手飲料ブランドがその広告キャンペーンで、抗議運動や警察との対峙を軽々しく扱ったとして強い反感を買いました。この広告は軽率で、その国の人種関係の歴史的や文化的コンテキストを正しくとらえていませんでした。企業がマーケティングで歴史上の出来事を取り上げたり触れたりしようとする場合に重要な点は、その歴史的コンテキストに対する理解を示すことです。メッセージが真摯かつ適切なものか、取り上げる人物や当時のレガシーに対して適切な敬意を払っているかを検討します。
順序と階層
インクルーシブマーケティングキャンペーンを制作することにした場合に考慮すべきもう 1 つの重要な点は、広告内の対象の順序や階層です。いくつかの例を考えてみましょう。
大手の石鹸メーカーの広告で、石鹸を使った黒人女性が示された後、次のフレームに白人女性が表れました。広告自体には多様性がありますが、この 2 人の女性が表れた順序から、褐色の肌を「汚い」と考える人種差別的な意味合いが見てとれました。同社はその後謝罪しましたが、微妙なニュアンスながら、順序によって多大な影響を及ぼす可能性のあることがわかりました。
もう 1 つの例は職場のストック写真で、男性従業員が女性の席の横で権威的な姿勢で立っているものがよくあります。こうした順序と階層から、女性は男性より劣っており、知識が乏しく、男性が女性に説明しなければならないことが示唆されます。この場合も、写真家やマーケターにはこうした意図がなかったかもしれませんが、メッセージから受け取るこうした影響を免れることはできません。
メディアでオフィスの情景が映し出される場合、最高責任者や管理職として描かれるのはたいてい男性です。以下は、伝統的な男女の役割とステレオタイプに根差した組織図の例です。
5.盗用の回避
定義: 盗用 (文化の盗用) とは、マイノリティの文化の一側面を、その背後にある意味を知らないまま、あるいは尊重することなく、採用/使用することです。
文化の盗用を検討する場合は相当な議論や対話を要します。世界の人々の文化、伝統、個人的な体験について話し合うことは、主観的であると同時にデリケートなものです。このモジュールで取り上げるいずれのトピックも単純明快なものではありません。すべて難しい問題についての勇敢で真摯な会話を要します。
先般、ある大手のスナック菓子企業が、南アジアコミュニティの文化を盗用した広告を流したことで調査を受けることになりました。この広告では、ボリウッドのプロデューサーに扮した有名な俳優が、ステレオタイプに根差した様子で描かれていました。同企業はこの白人の俳優を「褐色の肌」にしたことで批判を受けました。反感を買った同社はその後広告を取り下げています。
ここで、実際には文化を盗用しているのか尊重しているのかを判断するためのガイドラインをいくつか示します。
- マイノリティ文化かマジョリティ文化か: 何が盗用にあたるのかの定義では、支配関係の力学が大きく関与します。「取り上げられる側の文化がマイノリティ文化や社会の傍流の文化か?」「取り上げる側の文化がマジョリティ文化か?」の答えが「はい」の場合は、どのように取り上げるかを慎重に検討します。ちょっとだけ取り上げたつもりでも、辛辣な史実を思い起こさせたり、文化的な意味合いを伴ったりすることがあります。
- 利益の享受か利益の剥奪か: 利益も支配権の力学に関係します。「マイノリティ文化の要素からマジョリティ文化が利益を得ているか?」「マイノリティ文化も恩恵を受けているか、除外されているか?」を検討します。盗用にあたるケースの多くは、マイノリティ文化のかつては軽蔑されていた側面を、マジョリティ文化がそのコンテキストで肯定的に描いて利益を得る一方で、原作者側は認められたり恩恵を受けたりすることがありません。
- 真摯かどうか:「真摯な形で取り上げているか?」「その文化の真のメンバーによって表現されているか?」を検討します。
- 尊重しているか悪用したりからかったりしているか:「取り上げる文化に敬意を表しているか?」「尊重しているか?」「その豊かな歴史について他の人々に教示することができるか?」を検討します。私たちが目にした盗用の実例では、面白おかしく表現しようという意図によるものが多々あります。けれども、文化の聖なる側面を物笑いの種にしようとすれば、礼を失することになります。
- 情報に基づいているか誤解に基づいているか: 文化のどの要素を使用する場合でも、まず「その文化を広告で描けるほど十分に理解しているか?」と自問する必要があります。常にコミュニティの信頼のおける人々に助言を求め、取り上げる側面の歴史や意義について学ぶうえですべきことを行います。
軽率な盗用は避け、文化を尊重し認識しようとするのであれば、ニュアンスや歴史的なコンテキストに気を配り、文化を尊重して学習し、助言や多様な意見を求め、意図と影響を見極めて、真摯な声を押し上げます。
6.ステレオタイプに挑む
定義: ステレオタイプに挑むということは、ワンパターンの意見、偏見のある態度、軽率な判断を表す画一的なイメージに挑むことを意味します。
これは、私たちマーケターが周囲の社会に対する影響力を発揮できる分野です。マーケターは、多様な人々がその周囲の世界に自分たちの可能性が反映されていることを実感できるようにするという方法で、平等運動を導くことができます。たとえば、私たちがもっと女性の最高責任者、有色人種のトップエンジニア、障害者である憧れのスポーツ選手を示したらどうなるか想像してみてください。会話のあり方に変化が見られ、次世代のリーダーを触発することができるでしょう。
存在を示すことは重要です。以下に、その理由を説明する 3 つの具体例を示します。
- 「幼い頃、教室の壁に貼ってあった大統領のポスターをよく眺めていました。帰宅して母に『歴代の大統領の顔ぶれを見ると、私は大統領になれないみたいだね』と言ったものです」— Alexandra Siegel (Salesforce の Equality Content and Narrative)
- 他方、次の動画は Michelle Obama の肖像画を見つめる 3 歳の Parker Curry の有名な写真を紹介しています。リーダーのイメージに自分自身が反映されていることを実感することの威力を示しています。
- 最初の単元で示した、CEO、アスリート、エンジニアのイメージを塗り替える画像を覚えていますか? 私たちは皆、日々のマーケティングでこうしたことを実践できます。たとえば、先般、ある生理用品企業が「女の子っぽい投げ方」がどのようなしぐさを意味するかに挑むコマーシャルを制作しました。同社は、「女の子っぽい投げ方をして」という指示を受けた大人の女優と、同じ指示を受けながら自信をもって力一杯投げた少女の対比を示しています。この広告は、伝統的なステレオタイプが私たちの文化や社会に及ぼす影響を示すと同時に、こうした考え方を変えて次世代を力づける企業の可能性を実際に示しています。
インクルーシブマーケティングの 6 つの原則を認識したところで、次の単元ではレビュープロセスを設定する方法を見ていきます。