第 4 次産業革命の社会への影響を理解する
学習の目的
このモジュールを完了すると、次のことができるようになります。
- 第 4 次産業革命による個人および社会への影響を説明する。
- 第 4 次産業革命が世の中を良くする牽引力となるような方向性を説明する。
私たちの価値
第 4 次産業革命によって、私たちの生活、仕事、地域社会が変化しています。政府や教育、医療、商業など、暮らしのほぼすべての側面が刷新されています。
この先、私たちが何にどのような価値を置くのかも変化していくことでしょう。私たちが生活する物理的および仮想的な世界が変化し、場合によってはその身体も変化すれば、私たちの関係、私たちの機会、私たちのアイデンティティも変わるかもしれません。
良い方向への変化
新しいテクノロジーは、今後長きに渡り強力な手段になると思われます。
教育や情報へのアクセスが整備されれば、何十億人もの人々の生活が向上していきます。コンピューティングデバイスやネットワーク、デジタルサービス、モバイルデバイスが効果を発揮していけば、発展途上国の人々を含む、世界中の人々の生活向上が実現するものと思われます。
Facebook や Twitter、Tencent によって具現化されたソーシャルメディア革命により、誰もが自らの意見を瞬時に世界中の人々に伝えられる手段がもたらされました。現在では、世界人口の 30% 以上がソーシャルメディアサービスを利用してコミュニケーションを図り、世界中の出来事を把握しています。
こうしたイノベーションにより、真の地球村が誕生し、何十億人もの人々が世界経済に参加できるようになります。また、まったく新しい市場で商品やサービスを販売できるようになります。新しい方法で知識や収益を得る機会が人々に与えられ、かつては考えもしなかった自らの潜在性を認識する中で、新しいアイデンティティが確立される可能性もあります。
「第 4 次産業革命によって、最終的には、私たちが何をするのかだけでなく、私たちが何者なのかも変容するでしょう。このパラダイムシフトは、私たちのアイデンティティと、それに関連するあらゆる問題に影響を及ぼします。つまり、私たちのプライバシーに対する意識、所有の概念、消費パターン、仕事や余暇に費やす時間、キャリア開発、スキルの習得、人々との出会い、関係の構築などです。」— Klaus Schwab, The Fourth Industrial Revolution
すでに、オンラインショッピングや無人機などの配送サービスによって、利便性やリテールエクスペリエンスのあり方が再定義されつつあります。配達が簡便になることで、遠隔地を含む地域社会が変容し、小規模な地域や農村部の経済を跳躍させることができます。
身体的な分野では、生物医学の進歩により、健康的な生活を送り、長生きすることができます。人間の脳をコンピューターに接続して知能を高めたり、擬似世界を体験したりするような神経科学分野のイノベーションも期待できます。人間の問題解決能力を備えたロボットの威力を想像してみてください。
第 4 次産業革命のテクノロジーによって自動車の安全性が推進されれば、交通事故による死者が減少し、保険料が引き下げられ、炭素排出量が低下します。自律走行車が出現すれば都市の生活空間や建築、そして道路そのものが一新され、社会的なスペースや人間中心の空間が広がるでしょう。
デジタルテクノロジーによって作業者が自動化可能なタスクから解放されれば、ビジネス上の複雑な問題への対処に専念でき、自主性が高まります。また、これまで解決できなかった問題に対して、より創造的な解決策を考案するためのまったく新しいツールやインサイトが作業者に与えられます。
悪い方向への変化
第 4 次産業革命には世界を良くする牽引力がある一方で、テクノロジーによって私たちがどう変わりうるかを思案しなければ、良くない結果を招くおそれがあることも認識しておかなければなりません。
私たちは、自分たちにとって価値があると思うものを構築します。つまり、こうした新しいテクノロジーを使用して構築していくときに、自分たちの価値観を心に留めておく必要があります。たとえば、私たちが家族との時間よりもお金に価値を見出していれば、家族との時間を犠牲にしてでもお金を稼ぐためのテクノロジーを構築するものと思われます。そして構築されたテクノロジーからは、その根幹的な価値を変え難くするインセンティブが作り出されます。
人々はテクノロジーと深く関わっています。テクノロジーに反映されるのは、どのように世界を創るのかという思想です。そのゆえに、慎重な開発が求められます。これまで以上に最初が肝心となるのはこのためです。
私たちは、テクノロジーが持つ威力と、それを管理する私たちの知恵のどちらが先に成長するのかという競争に勝つ必要があります。間違いから学ぶようなことはしたくありません。— Max Tegmark, Life 3.0
バイオテクノロジーの進歩は、デザイナーベビーや遺伝子ドライブ (種全体で受け継がれる形質の変更)、受験や就職で有利なインプラントのように、物議を醸すこともあります。ロボット工学や自動化の分野のイノベーションでは、仕事が消失してしまうことや、消失せずとも、その内容や必要なスキルが激変する可能性があります。
人工知能、ロボット工学、バイオエンジニアリング、プログラミングツール、その他のテクノロジーはすべて、武器の製造や配備に使用される可能性もあります。
ソーシャルメディアによって国境がなくなり、人々の団結が可能になりますが、その一方で社会的分裂が強まるおそれがあります。そして、ネットいじめやヘイトスピーチ、虚偽のストーリーの拡散の温床にもなります。ソーシャルメディアにどのようなルールを制定するのかを決定する必要がありますが、その一方で、私たちが何に価値を置き、これらのルールをどのように策定して導入するのかでさえ、ソーシャルメディアによって誘導されているという事実も受け入れる必要があります。
さらに、インターネットに常につながっていれば、データおよび接続による過負荷が絶え間なく続き、法的責任に発展する可能性があります。
雇用の変化
人工知能によってまったく新しいレベルの生産性が実現し、私たちの暮らしがさまざまな形で強化されています。過去の産業革命の場合と同様に、人工知能には従来のあり方を根底から覆す威力があり、人々が仕事から締め出され、人と機械の関係に関する疑問が浮上することがあります。
人工知能によってさまざまな作業が自動化されれば、仕事に影響が及ぶことは避けられません。とはいっても、20 年前のインターネットと同様、人工知能革命によって多くの仕事が変容し、新種の仕事が発生すれば、経済成長が促されることになります。作業者は、機械による自動化には向かない創造的なタスクや人々と協力し合うタスク、複雑な問題を解決するタスクに多くの時間を費やすことができます。
ただし、第 4 次産業革命が進行していく中で、教育レベルやスキルが低い作業者は不利な立場に追い込まれます。企業や政府は、近未来の仕事に合わせた人員のトレーニングに注力し、仕事の本質的な変化に適応する必要があります。将来の労働者には、人材育成、生涯学習、キャリア再構築が不可欠なものになるでしょう。
平等の変化
果たして第 4 次産業革命は万人をより良い未来に導くものなのか、という疑問が人々から投げかけられています。テクノロジーが急速に威力を増し、並外れたレベルのイノベーションを推進しています。そして周知のとおり、世界の人々およびモノのつながりが拡大しています。だからといって必ずしも、多様性や包括性に富んだオープンなグローバル社会への道が切り開かれているわけではありません。過去の産業革命で学んだ教訓として、テクノロジーとその富の創出によって利益を得るのは、他の人々の上に立つ小数の有力者であるという認識があります。グローバルなデジタルネットワーク上に構築された強力な最新テクノロジーを使用して、社会を過剰なまでの監視下に置くことはできますが、物理的な攻撃やサイバー攻撃に対して脆弱になります。これらは、テクノロジーと政治が協力して、人々の妨げとなる格差を生み出さないようにするうえで、私たちが直面するであろう課題です。
世界経済フォーラムの「Global Risks Report 2017」によると「第 4 次産業革命は、あらゆる人々の所得水準を押し上げ、生活水準を高める潜在性を秘めている。しかし現在、第 4 次産業革命の経済的利益は、小数の人々に集約されつつある。こうした不平等が拡大すれば、政治の分極化、社会の断片化、制度に対する不信感につながるおそれがある。このような課題に対処するために、公的・民間部門のリーダーが、すべての人々を押し上げる、より包括的な開発と公平な成長に真摯に取り組む必要がある」と述べられています。
世界には、かつての産業革命の恩恵を未だ受けていない人が大勢います。「Shaping the Fourth Industrial Revolution」の筆者が指摘するとおり、6 億人を超える人々が機械化とは無縁の小自作農として生計を立て、第 1 次産業革命の恩恵でさえ受けていない暮らしを送っています。世界人口の約 3 分の 1 (24 億人) は清潔な飲料水や安全な下水施設を利用できず、約 6 分の 1 (12 億人) には電気がありません。このどちらも第 2 次産業革命で開発された制度です。そして、デジタル革命によって、現在 30 億人を超える人々がインターネットにアクセスできるようになりましたが、40 億人を超える人々が第 3 次産業革命の中核的な進歩から取り残されています。
つまり、私たちが第 4 次産業革命の画期的なテクノロジーの恩恵を享受する中で、このテクノロジーによってもたらされる機会が、世界や地域社会全体に行き渡るよう取り組む必要があります。特に、第 1 次、第 2 次、第 3 次産業革命による生活水準の大幅な改善から取り残されている人々を支援することが求められます。
「力を合わせて万人のための未来を築きましょう。そのためには、人々を第一に考え、人々に力を与え、こうした最新テクノロジーがもともと人々によって生み出された人々のためのツールであることを常に認識します。」— Klaus Schwab, The Fourth Industrial Revolution
プライバシーの変化
私たちは、人々に関して知り得た情報を管理できることに価値を置いています。そして、よりインテリジェントでパーソナライズされたサービスを提供するためには、各人の個人情報の追跡が鍵を握るという世界で生きています。次に例を示します。
- Facebook はあなたの動作を追跡して、あなたと関連性が最も高いコンテンツや広告はどれなのかを把握します。
- スマートフォンであなたの現在地が追跡されるため、あなたは付近のお勧めのレストランやショップを示すアプリケーションで、その情報をシェアすることができます。
- 小売業者はあなたの購入履歴を分析してお勧めの商品を紹介したり、クーポンを提供したりして、販売を促進しています。
将来的には、あなたがお店に入ると、瞬時に販売員が拡張現実の仮想スクリーンに、あなたの名前、信用等級、婚姻区分、購入歴を表示するかもしれません。
テクノロジーの進歩によって監視の範囲も広がっています。現在英国では、推定 600 万台の CCTV カメラが同国全域の活動を録画しています。コンピューティング機能と人工知能が進歩すれば、法執行機関がソーシャルネットワーク、政府の記録、その他のデータを分析して、テロ計画者を追跡できるようになる可能性があります。
将来的には、空中浮遊する何十億台もの 3D プリント製「スマートダスト」カメラが人間の活動を監視するかもしれません。交通情報から自然災害まで、こうしたテクノロジーによって私たちの安全が確保されるでしょう。ただし、監視されたくないときも監視されるかもしれません。
データ収集方法を透過的にして、消費者のプライバシーを最優先する企業が消費者のロイヤルティを獲得することでしょう。
信頼の変化
企業や政府、メディア、そしてテクノロジーに対する人々の信頼が失われつつあります。社会を分裂させ、世界を不安定にする危機的な状況です。
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第 4 次産業革命のテクノロジーそのものは中立的なものですが、信頼が構築されるような方法で適用されているのでしょうか? 最新の人工知能やロボット工学システムによって生活が改善されるだろうという信頼を消費者が抱くでしょうか? あるいは機械とそれを制御する人々に対して危惧を抱くでしょうか? 人々のデータを収集して管理する機関やサービスプロバイダーを市民が信頼するでしょうか?
第 4 次産業革命で信頼を育むためには、この革命に参加する全員 (あなたもです) が共通の目的に向けて団結しなければなりません。その鍵を握るのは、テクノロジーの規制および管理方法に対する透過性と、これらのシステムがハッキングされたり、混乱を引き起こしたり、掌握を企む一派の圧制の道具になったりすることはないという自信を高めるためのセキュリティモデルです。
まとめ
人工知能、バイオテクノロジー、ロボット工学、その他の最先端テクノロジーのイノベーションによって、人間であることの意義や、お互いの関わり方および地球への関わり方が様変わりするものと思われます。私たちの資質、アイデンティティ、そして潜在能力までも、私たちが創り出すテクノロジーとともに進化します。
これから数十年のうちに、第 4 次産業革命を、全人類が恩恵を受ける方向に進めるためのガードレールを設置することが求められます。私たちは特に、平等、雇用、プライバシー、信頼の分野における潜在的な悪影響を認識して管理する必要があります。自らが開発するテクノロジーから意識的にポジティブな価値を生み出し、そのテクノロジーがどのように用いられるのかを考え、倫理的な用途を念頭に、私たちにとって重要なことを堅持する協調的な方法によって設計しなければなりません。
こうした取り組みでは、すべての関係者 (政府、政策立案者、国際機関、規制当局、企業組織、学界、市民団体) が協力し、この強力な最先端テクノロジーを、リスクを抑えたうえで、未来に向けた共通目的と合致する世界を創り出すよう舵を切っていくことが求められます。
個人、市民、従業員、投資家、ソーシャルインフルエンサーであるあなたは、第 4 次産業革命の重要な関係者です。この革命が進行していく中で、テクノロジーと自身が価値を置くことについて、考えを共有することはきわめて重要です。私たちがテクノロジーを介して創り出す世界が私たちの生活を構築し、次の世代に受け継がれます。
「第 4 次産業革命によって、仕事、地域社会、家族、アイデンティティ、つまり人類がこれまで意義を見出してきたものが損なわれるかもしれません。あるいは、運命の共有感に基づく新たな集団的、道徳的な意識へと人類を高めてくれるかもしれません。どちらを選ぶかは私たち次第です。」— Klaus Schwab, The Fourth Industrial Revolution
リソース
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We must ensure the Fourth Industrial Revolution is a force for good (第 4 次産業革命を、世の中を良くする牽引力にする必要がある)
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Technology can reinforce the global divide.Let’s use it to bridge the gap (テクノロジーによって世界の分裂が進むのならば、そのテクノロジーを架け橋にしよう)
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The moral dilemmas of the Fourth Industrial Revolution (第 4 次産業革命の道徳的ジレンマ)
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第 4 次産業革命
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This is when robots will start beating humans at every task (ロボットがあらゆる作業で人間を負かし始めるとき)
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7 ways the Fourth Industrial Revolution can help the planet (第 4 次産業革命で地球を救う 7 つの方法)
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What Is the Fourth Industrial Revolution (第 4 次産業革命とは)