心理的安全性の探求
学習の目的
この単元を完了すると、次のことができるようになります。
- 心理的に安全な勤務環境が重要である理由を要約する。
- 個人間のリスクが職場での意見表明に与える影響を説明する。
- 意志表示やスマートリスクを受け入れることがビジネスの健全性と職場の文化にどのような利点をもたらすかを説明する。
Salesforce の勇敢なジャーニー
今日、私たちの世界は猛スピードで変化しています。仕事はますます複雑になって変動し、職場は年中変わっていて多様化と分散化が進んでいます。新しい同僚、プロジェクト、製品、期日の状況を把握し、質の高い成果を出すためには、自分 1 人で進めたり、尻込みしたり、沈黙を守ったりすることは許されません。必要なのは、明確なコミュニケーションと効果的なコラボレーションを行うハイパフォーマンスのチームを作ることです。これは、Salesforce の文化にとって不可欠な信頼というコアバリューにも沿っています。
Salesforce では、勇敢なハイパフォーマンスのチームを作るためのジャーニーが始まっています。これには、従業員が自由に意見を投稿し、アイデアを提案し、質問をし、懸念事項を表明するためのスペース、安全、スキルの提供が含まれます。この心理的に安全な環境で勇気の文化を築き、従業員がリーダーや同僚に、何を見て、何を知っているか (知らないか)、何をしたいかを伝えられるようにしていきます。
その結果、従業員から仕事 (と自分自身) に関して重要な情報が提供され、イノベーションが促進されます。このジャーニーにはとても期待しています。また、各自の組織で心理的安全性を培い、ハイパフォーマンスのチームを作り始めるためのインサイトとツールを用意します。
「待ってください。心理的安全性って何ですか? 脳のシートベルトのようなものですか?」いえ、そうではありません。心理的安全性という用語を重要な職場の要因として挙げたのは『The Fearless Organization』(邦題: 恐れのない組織) の著者であるハーバードビジネススクール (ノバルティス記念講座) の Amy Edmondson 教授です。心理的安全性とは、従業員が「懸念を声に出して発言し、その発言が受け入れられること。恥をかいたり、罰せられたりしないように自分のやったことを隠す必要がなく、恐れを抱く必要がない」社風や環境を作ることです。
Salesforce では運良く、この学習ジャーニーの作成を指導するエグゼクティブアドバイザーとして Edmondson 教授を迎えることができました。教授の協力を得て、より心理的に安全な環境を確立していきます。そこでは、私たちは弱く自分らしい存在として同僚と深くつながることができます。まだ道半ばですが、皆さんも勇敢なハイパフォーマンスのチームを作れるように学習したことを共有していきます。
意見を述べることはリスキーなビジネス
今あなたはこう思っているかも知れません。「心理的安全性と勇敢なチーム作りはいい話だけれど、私はまだ共有できる状態ではない。意見を言って愚か者に見られないかと心配だ」と。
それは理解しています。沈黙することはチームから嫌われることよりもはるかに快適だからです。私たちは遺伝的に現状維持を好むようにプログラムされており、ほとんどの脅威に対しては、沈黙と戦略的思考の停止によって自然に対処してしまいます。そうした理由から、私たち従業員はプロジェクトが壊滅的な方向に向かっているときに目を背け、自分や他者に助けが必要なときにも助けを求めることを拒絶し、不具合や改善の余地に気付いても黙り込んでしまうのです。
本当に正直に意見を述べたら、恐ろしいことになるかもしれません。特に、質問をしたり、異なる視点を共有したり、すでに確立されている事実に疑問を呈したりすることで批判を受けるのではないかと思われる場所での意見表明は、非常に勇気のいる行為です。意見が絶対に受け入れられるという自信でもない限り、ほとんどの人は言葉を飲み込んでしまいます。次のような状況に思い当たる節がありませんか?
- マネージャーがプロセスにステップを追加しようとしているが、それによって下流で大きな問題が発生すると直感した。しかし、意見を述べることで批判されたくなかったため、沈黙を貫いたが、結局それが間違いであった。
- チームメイトの 1 人が不具合を発見したが、その修復には多額のコストが掛かる。製品マネージャーは、その従業員が不具合を発見したことを褒めるのではなく、もっと早く不具合を見つけられなかったことについてチーム全体を叱責した。
- リモートオフィスで働いている従業員が、すでに共有されている意見とは異なる意見を出してきた。そのアイデアは革新的だったが、オフィスの外部からの意見であり、誰も賛同しなかったため、黙殺された。
このように心理安全ではないと感じる状況では、特定の行動が「個人間のリスク」を生じないか、もしくは嘲笑、拒絶、場合によっては懲戒の対象とならないかどうかを慎重に考えてしまいます。個人間のリスクとなり得る行動の例を挙げます。
次のことを避けるのは |
このリスクを避けるため |
---|---|
質問をする |
無知だと思われる |
間違いを認める |
能力が低いと思われる |
アイデアを出す |
協調性がないと思われる |
問題を提起する |
批判的だと思われる |
現状に挑む |
破壊的だと思われる |
ある行動が「リスキー」であり、自分のイメージ、ステータス、あるいはキャリアを損なう可能性があると自覚しているときには、必然的にタイミングやコンテキストを慎重に管理しようとしたり、行動をすべて避けたりすることがあります。私たちは「波風を立てる」、「場を白けさせる」、あるいは「物事を理解できない」人間にはなりたくないと考えます。ただし、これはビジネスに良くないだけではなく、私たち個人にも被害を及ぼします。意見を言わないということは、誰にも意見が聞かれないわけですから、結果的に疎外、孤立、不安、そして悔恨の感情に繋がります。
多くの場合、このような個人間のリスクを従業員として受け入れることは、ベストを尽くし、チームのパフォーマンスを高め、ビジネスを前に進めるために私たちがすべきこと、いやしなければならないことなのです。
リスクの報奨を受け取る
「きしむ車輪は油を差される」という諺があります。その「油」こそが良いのです。私たちが「きしむ」、つまり意見を述べることにより:
- 多様な視点からのアイデアや専門知識を得られる
- 地理的に分散したチームでの協力が強化される
- 従業員の健康、自信、そしてエンゲージメントが向上する
- より包括的な環境が構築される
- 企業の文化が強化される
このすべてから、共に勇敢に働く力強い成功するチームが作られます。なぜなら、心理的に安全な環境では、勇気を持ち、意見を述べ、現状を変えようと努力することは、個人的なリスクとしては見られず、学習やイノベーションの機会として受け入れられるからです。このような環境であれば、チームやマネージャーが、常に 100% 同意してくれるわけではなくても、たとえ失敗してもリスクを受け入れることの価値を理解しているため、私たちはその場に身を置きたいと願います。
「そうか! それが信頼に繋がるのか!」はっきりさせておくと、心理的安全性と信頼はイコールではありません。信頼は個人と個人の間に確立されます。信頼とは、日々の (大げさではなく) 些細な意志表示が積み重なって構築されたり、崩れたりします。心理的安全性はチームレベルで確立されます。ただし、個人間の信頼を構築する行動の多くは、チーム内の心理的安全性と信頼の確立にも貢献します。
たとえば、他の人と対話する場合には、次のような行動が信頼の構築に繋がります。
- 注意を向ける
- 約束を守る
- 感謝の意を述べる
- 間違いを謝る
これらの行動をチーム内で徹底することで、心理的安全性が確立されるのです。チーム内では、個人間の信頼を得ることだけに集中するのではなく、次の行動によってチーム全体の雰囲気も改善すべきです。
- 多様な視点への興味を持ち続ける
- 機密情報を漏らさない
- スマートなリスクを肯定する
- 正直で率直になる
- 常に責任を持つ
「ちょっと待ってください。これって、単に良い人になりなさいと言っているだけでは?」はい。良い人になることは悪いことではありません。しかし、信頼と心理的安全性は、単に礼儀正しくなることや、他人を不快にさせないということではないのです。いわゆる「良い人」になることが、実際には本当のことを言わずに黙っていることである場合がよくあります。自然な対処かもしれませんが、特に思いやりというわけではないのです。心理的安全性とは、明確な期待を設定し、たとえ真実を述べることが困難あるいは不愉快であっても公平で開かれた雰囲気を維持することです。ただし、何でも言ったりやったりできる「何でもあり」の雰囲気とは違います。必要なのは、互いを尊重しつつ、アイデアを交換し、異なる視点を共有し、少しでも生産的であれば積極的に討論をする雰囲気です。
意見を述べても安全だと感じ、チームのメンバー間に信頼が確立されていれば、ハイパフォーマンスを実現することができます。次の単元では、心理的安全性と、勇敢なハイパフォーマンスチームの構築との関係について学習します。脳のシートベルトをしっかりと締めて、勇敢になってください!