快適さより勇気を
学習の目的
この単元を完了すると、次のことができるようになります。
- 心理的安全性、弱さ、勇気の関係を説明する。
- 快適性より勇気を選ぶことが勇敢なハイパフォーマンスチームの構築にどのように役立つかを説明する。
不快になることで快適になる
心理的安全性というのは、仕事のように達成したら予定表から消して、後は忘れるという類のものではありません。心理的安全性を 1 回だけ感じても、それが常に続くとは限りません。実際には、私たちの仕事や職場環境は変わるものであり、私たちは欠点や恐怖心を持つ人間なのですから、完全な心理的安全性というものはあり得ないのです。
それでもかまいません。ここで目指しているのはより高い心理的安全性を確立して、より多くの人々が声を上げられるようにすることです。そしてこの努力はいつまでも続くものであり、私たちが個人として弱くなって、快適性よりも勇気を常に選択する必要があります。
「ちょっと待ってください! 私は脆弱にはなりたくありません。それがよいこととは思えません!」いえ、そうとも限りません。弱さは弱点ではないのです。『Dare to Lead』(勇気あるリーダー) の著者である研究者の Brené Brown は、弱さを「不確実なとき、危険なとき、そして感情を顕わにしたときに経験する感情」と定義しています。つまり、何か (主に自分の評価) が損なわれるのではないかと疑ったときの感情です。
前の単元で学習した個人間のリスクを覚えていますか? 心理的に安全ではない環境では、質問をしたり、誤りを認めたり、提案をしたりといった行動は弱さを感じる原因となり、ネガティブな結果を招きがちになります。私たちは、無知、不完全、あるいは邪魔だと思われないかと恐れて、これらのリスクを避けてしまいます。
ですが、心理的に安全な環境であれば、学習の機会として弱さをさらけ出すことができます。
ここで大切なのが勇気です。勇気を出すことで、恐れを感じることなくこれらの機会を活用できます。勇気を出せば、失敗するかも知れないとわかっていても、相手に近づいて自分の意見を述べることができます。Brown は、この関係を「弱さの物理学」と呼んでいます。
不快な状況を受け入れるのは、それが適切なことで、いずれは素晴らしい結果に結びつくからです。
チームを組んで行動を起こす
快適性よりも勇気を選び、不安があっても意見を表明することにより、チームのメンバーにも同じ勇気を与えることができます。このプロセスにより、私たちは全員の心理的安全性を確立するのです。
全員が同じリスクを背負うため、個人的な悪影響に悩むのではなく、快適に協力し合い、力を合わせて効率改善、イノベーション、そして成長をもたらすのです。
このような高みに達するためには、一人でやってはダメです。チームメンバーの集合知と経験を活用することで、一緒に行動を起こすのです。これが、効果的なチームを作り上げるための鍵となります。すでに述べたように、私たちの仕事はさらに複雑になり、従業員はさらに多様化して地理的にも分散するため、これは絶対に必要なことなのです。
効果的なチームを作り、共に働くやり方に合意すれば、意思決定もより効果的になり、お客様への影響も増し業績も向上します。その理由は私たちが次のようになるからです。
- ビジョンと価値を共に作り出す
- 期待と目標を見失わない
- 役割と責任を明確にする
- 勇気のある会話を実践する
- リスクを試して受け入れる
- 反省する時間を作る
- 間違いを認める
では、快適性より勇気を選択できるような心理的安全性が効果的なチーム作りに貢献する例を見て見ましょう。
何かを見かけたら報告する
Santha は、製品の新機能のリリースを担当するチームの一員です。とても革新的な機能であるため、すでにお客様には大々的に宣伝が行われており、期待は大いに高まっています。
ですが、Santha はその機能にバグを見つけました。これを直さないとリリースできません。リリース予定日はどんどん近づいていますので、彼女がそのことを伝えるのは...今です。
Santha は直ちにメンバーを招集し、バグについて報告しました。残された時間が短いため、議論は白熱しました。しかし、チームの結束は固く、互いを信頼していますので、必ず何とかなります。誰も文句を言わずにトラブルシューティングを行い、誰をも批判することなく可能な解決策を模索し、最終的には問題を解決してリリースに間に合わせることができました。
このシナリオでは、Santha は、快適性より勇気を選ぶことが正しいことであると理解していました。彼女のチームは Santha の勇気を許して受け入れ、その結果、会社の厳しい標準をクリアした製品をお客様に届けることができました。
意見を述べることができるような心理的安全性が確保されていなかったらどうなっていたでしょう? Santha のケースで言えば、もし彼女が意見を述べずにバグを見逃していたら、お客様からの Salesforce の評判は急降下していたでしょう。
VitalSmarts の研究および Amy Edmondson と Brené Brown によって実施された調査によれば、勇気よりも快適さを選ぶと、アイデアが出なくなり、沈黙の文化が生まれ、やがては有害化します。その結果、次のマイナス要因が増大します。
- 非生産的な衝突
- ストレスとプレッシャー
- 誤解とコミュニケーション不足
- ディスエンゲージメントと離脱
- ミスや製品の不具合
- 競争で敗北
怖いですよね? これではチームとは言えません。
次は、心理的安全性を確保して勇敢なチームを作るための戦略について説明します。では、次の単元に進んでください。
リソース
- 動画: The Power of Vulnerability (弱さの力)
- 書籍: Dare to Lead (勇気あるリーダー)
- PDF: Dare to Lead Read-Along Workbook (勇気あるリーダーリードアロングワークブック)
- 記事: High-Performing Teams Need Psychological Safety.Here’s How to Create It (ハイパフォーマンスチームには心理的安全性が必要。それを作り挙げる方法)
- 記事: Costly Conversations: Why the Way Employees Communicate Will Make or Break Your Bottom Line (コストのかかる会話: 従業員のコミュニケーション方法によって収益に差が出る理由)