思い込みと影響を文書化する
学習の目的
この単元を完了すると、次のことができるようになります。
- 解決しようとしている問題の根本原因を明らかにするために、チームを率いて 5 回のなぜ演習を実施する。
- 多様性のあるチームを編成して、設計によるさまざまな影響や結果を評価する。
調査から得た意見を総合し、ユーザーのエクスペリエンスのジャーニーマップを作成し、関係者からのフィードバックを取り入れ、何が設計可能かを検討し始める際には、チームに生じている思い込みに注意を払うことが重要です。
持続可能な設計を行うには、いつものとおりの商品計画やいつものとおりの設計に疑問を持ち、変えていくことが必要です。ビジネスが「平常通り」なのは、その根底にある思い込みを疑うことがほとんどないからです。この単元ではシンプルなコラボレーションツールについていくつか学習します。このツールを使用することにより、チームは思い込みを特定し、ユーザー、社会、地球の利益のために思い込みに挑戦する方法を議論できるようになります。
このようなコラボレーション演習には次のような重要なヒントがあります。さまざまな人生経験を持つメンバーから構成されることで、チームの多様性が高くなるほど、この演習の効果はより大きくなります。また、多様性は設計を増幅する強力なツールです。チーム内でより多くの視点を持ち、メンバーに多様な見方を共有することを奨励するほど、設計をより高度に、より深くかつ広範に適用できるようになるからです。
5 回のなぜを質問する
持続可能性を実現するには、これまでとは異なる方法で物事を実行し、解決しようとしている原因や課題をより詳細に調べることが必要です。
新しいアイデアや働き方を生み出すことが非常に難しい理由の 1 つは、私たち自身、チーム、職場が、変えられるものと変えられないものについての思い込みを共有していることにあります。多くの場合、このような思い込みは職場の文化に組み込まれていて、目に見えるものではありません。なぜそのような思い込みがあるのか、解決しようとしている問題の根本的な原因は何なのか、といったことは気にも留めません。
5 回のなぜは豊田自動織機の創業者である豊田佐吉が考案しました。これは、「なぜ?」と 5 回質問することで、問題の根本原因を突き止めるというシンプルな方法です。
ビジネススクールで行われる 5 回のなぜの有名な例を紹介します。
問題: リンカーン記念館の大理石が急激に劣化しています。修復には費用とリスクの両方が伴います。
なぜ 1 – なぜ、記念像が劣化するのか?
洗浄に刺激の強い化学薬品を使用するから。
なぜ 2 – なぜ、刺激の強い化学薬品を使用するのか?
鳥の糞を処理するため。
なぜ 3 – なぜ、こんなに鳥の糞が多いのか?
鳥たちが記念館のドームの内部にいる多くのクモを食べに来るから。
なぜ 4 – なぜ、こんなに多くのクモがいるのか?
クモは夕暮れ時に記念像に集まってくる虫を捕まえるためにいる。
なぜ 5 – なぜ、夕暮れ時に虫が記念像に集まってくるのか?
夜間照明が虫を引き寄せるから。
ソリューション: リンカーン記念館の夜間照明を変更し、虫を寄せ付けないようにする。
5 回のなぜの演習を実施する
5 回のなぜの演習は 3 つのステップで実施できます。
- チームを結成します。
- 次のような持続可能性の明確な課題を定義します。
- 廃棄物ゼロの目標達成に向けて順調に進んでいない。
- 環境パフォーマンスを向上させるための取り組みが XYZ 地域で停滞している。
- 「なぜ?」と質問して、さらに 4 回、「なぜ」と質問します。
影響の順序を明らかにする
持続可能な設計の大半は、設計するエクスペリエンスに関連する考慮事項の範囲を広げることにあります。設計者は本来、問題を解決する人であり、解決策を見出す人です。多くの場合、持続可能な設計とは、この問題を解決しようとする本来の性質を、より広い問題に向けることであると言えます。
影響の順序の演習は、視野を広げるための演習です。この演習では、商品が世界に与える影響について考えてもらいます。ただし、一次の影響を検討するだけでなく、設計がもたらす可能性のある二次、三次の影響についても質問します。
一次の影響とは、設計上の意思決定や商品による直接的/意図的な影響のことです。例: この商品が売れれば、消費者が満足し、収益も増えるだろう。
二次の影響とは、一次の影響から生じる可能性のある結果のことです。例: 消費者の健康はこのような形でマイナスまたはプラスの影響を受けるだろう。
三次の影響とは、前述の結果から生じる結果です。例: 消費者の健康に影響があった場合、消費者はこのような方法で行動を変えるかもしれない。または、消費者の健康に影響があった場合、消費者のコミュニティの全体的な健康にこのような影響があるだろう。
影響の順序の演習を実施する
チームで次のことを行います。
- ホワイトボードやデジタル空間に 3 つの同心円を描きます。
- 設計するエクスペリエンスや商品を検討します。
- 「設計による一次の影響は何ですか?」と質問します。これには次のようなものがあります。
- 作り出したい考えている購入とその後の使用。
- 収益、発生したコストなどのビジネスへの影響。
- 「設計による二次の影響は何ですか?」と質問します。これには次のようなものがあります。
- 商品の使用による社会的または環境的な影響。
- 直接の顧客以外の人々やコミュニティへの影響。
- 設計による三次の影響は何ですか? これには次のようなものがあります。
- 時間経過に伴う二次の影響の波及効果。
- 業界全体として世界に与える影響。
- 潜在的な影響を検討します。「プラスの影響を増幅し、マイナスの影響を軽減するには、どうすればよいですか?」と質問します。
Consequence Scanning
Consequence Scanning は、影響の順序の演習に似ています。ただし、目的は同じですが、用語が若干異なります。両方を試してみて、自分のチームに合った方法を継続して使用してください。
Consequence Scanning では、「設計によるプラスの結果とマイナスの結果は何か?」を問いかけ、プラスの結果を増幅し、マイナスの結果を意図的に最小化する方法について、ブレインストーミングを実施します。
- 意図した結果とは、実現しようとした結果です。これには、プロジェクト要件も含まれます。ビジネスと顧客への直接的な結果以外にも、マイナスの影響とプラスの影響を含めるように拡張してみてください。
- 意図しない結果とは、意図した以外の発生する可能性のある結果です。これには、最初は考えもしなかったような結果も含まれます。商品やサービスが意図しない方法で使用される可能性や、その意図しない波及効果についても議論してください。
Consequence Scanning の演習を実施する
チームで次のことを行います。
- 設計を検討し、「設計がもたらす意図した結果は何ですか?」と質問します。
- 「意図しない結果は何である可能性がありますか?」と質問します。
- 「意図しないマイナスの結果を軽減するには、どうすればよいですか?」と質問します。
大半の設計と同じように、より持続可能な設計とは、次のような適切な質問をすることです。いつものとおりのアプローチに内在する思い込みは何ですか? その思い込みを疑ったらどうなりますか? なぜ、その方法でそれをするのですか? なぜ、その方法でそのようなことをするのですか? 異なる方法でそれ行うことができますか? この単元のシンプルなチーム演習を実施することで、あなたとチームはこのような会話を始めて、持続可能な設計への道を開けるようになります。
グリーン UX に関する次の単元では、ユーザーエクスペリエンス設計の持続可能性を高めるために利用できる追加の質問を紹介します。