プラスの行動を促すように設計する
学習の目的
この単元を完了すると、次のことができるようになります。
- 行動変容設計を定義する。
- 気候変動に最も大きな影響を与える個人の行動を 7 つ挙げる。
- Rare が掲げる行動変容の 6 つの行動のてこを挙げる。
始める前に
このモジュールの各単元を完了する前に、必ず「持続可能な設計のベストプラクティス」を完了してください。ここでの作業は、そのモジュールで学習した概念に基づいて行います。
ビジネス、設計、人が担う役割を理解する
この「持続可能性を考慮して設計する」トレイルでは、気候変動など、世界で最も差し迫った課題に取り組む上で、ビジネスと設計者が担うことができる役割を中心に説明してきました。これは意図的に重視されています。気候変動の原因となる排出物には、個人消費者よりも業界や企業の方が大きな影響を及ぼすからです。必要とされるスピードとスケールで気候変動のような地球規模の課題に対応するという私たちの願いは、業界と国が一丸となって問題に取り組むことによってのみ達成できます。
とはいえ、脱炭素化の実現に向けた道筋を示すエキスパートが提唱している示している気候変動対策では、個人の行動が大きな役割を果たしています。気候関連の非営利団体 Project Drawdown が発表した「Climate Change Needs Behavior Change (気候変動には行動変容が必要)」と題した調査では、80 の気候対策のうち 30 の対策が行動に関する対策であり、これにより 2020 年から 2050 年までに世界の排出量の最大 3 分の 1 を削減できるとしています。このような対策は、人々にリサイクル、プラスチックの使用量削減、コンポストの使用を促すことだけにとどまりません (ただし、このアクションのいずれも、米国人が最も効果的に温室効果ガス [GHG] の排出量を削減できる方法の上位 25 位にさえランクインしていません)。
私たちは個人としても役割を果たしたいと強く希望しています。Rare による 2019 年の世論調査によると、55% を超える米国人が気候変動に対応するために市民がより行動すべきだと考えています。
行動変容設計とは?
行動変容とは、人々の態度、選択、習慣を意図的に変えていく努力のことです。経済学、政治学、心理学、神経科学、設計思考全体から得た新しい知見により、人間の行動や意思決定に関する理解は変わりました。
望ましい行動を促すエクスペリエンスを意図的に作り出すことを、行動変容設計といいます。商品、サービス、コミュニケーションを設計することで、前向きな行動変容をサポートする力となり、GHG 排出量を最も大幅に削減する行動を促すことができます。
最も重要な行動を特定する
最近行われた分析に基づき、Rare は、人々が採用でき、気候への影響が最も大きいと思われる 7 つの個人行動を明らかにしました。Rare の計算では、たとえ米国人の 10% であってもこの 7 つの行動のそれぞれを行うと、パリ協定 (世界の GHG 排出量を安全なレベルまで削減するために、ほぼすべての国が署名した国際協定) における米国の排出量目標との差を 75% を超えて縮めることができます。
A から G まで並べられた行動は、米国の排出量に対する潜在的な累積影響とともにリストされています。それぞれのアクションを採用する方法の詳細については、「リソース」セクションを参照してください。
行動 | 米国の年間排出量に対する影響 | |
---|---|---|
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Adopt a plant-rich diet (野菜中心の食事を採用する): 肉を減らす。 |
年間で 25 メガトンの CO2 排出量 (MtCO2e) の削減および年間 11 億ドルから 127 億ドルの公衆衛生と社会的価値。 |
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Buy carbon offsets (カーボンオフセットを購入する): 再生可能エネルギーで自宅のエネルギー使用をオフセットする。 |
年間 276 MtCO2e の排出削減および年間 124 億ドルから 1426 億ドルの社会的価値。 |
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Contract for green energy (グリーンエネルギーの契約をする): 屋上ソーラーや再生可能エネルギーのクレジットを購入する。 |
年間 82 MtCO2e の排出削減および年間 40 億ドルから 420 億ドルの社会的価値。 |
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Don’t waste food (食べ物を無駄にしない): 食品の購入、保存、廃棄の方法を改善する。 |
年間 25 MtCO2e の排出削減および年間 11 億ドルから 131 億ドルの社会的価値。 |
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Electrify your vehicle (自家用車を電気化する): 次の自動車を EV にする。 |
年間 65 MtCO2e の排出削減および年間 29 億ドルから 334 億ドルの社会的価値。 |
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Fly less (飛行機に乗る回数を減らす): ビデオ会議をの使用を増やす。 |
年間 4 MtCO2e の排出削減および年間 2 億ドルから 21 億ドルの社会的価値。 |
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Get engaged socially (社会的に関与する): 他の人に影響を与えることで、自分のアクションを倍増させる。 |
個人的な取り組みに関与して、前向きな行動変容を増幅することで、上記に示した影響の推定値を増加させることができます。社会的に関与することは、このようなアクションについて友人や家族と話をするというシンプルなものから、社会的に共有することでさらに増幅させるものまであります。 |
行動変容設計を業務に取り入れる
米国の消費者の 10% が上記の行動を取れば、米国がもたらす気候変動への影響への要因を大幅に削減できます。人々が行う選択を設計する者として、このような行動の採用をサポートするにはどうすればよいでしょうか?
行動を変えるのは簡単ではありません。ですが、人間の脳のしくみを知っていれば助けになります。脳のしくみを理解することで、意味のある行動の移行につながる比較的小さな介入を設計できます。
これは、てこが支点に作用するのと同じように、動かせないと思われているものを動かせるようにするてこの力点として機能します。このような脳内のてこの力点を行動変容のてこと呼びます。
行動変容のてこについて知る
Rare は、行動変容計画を 6 つのカテゴリ (てこ) に分類しています。それぞれが、行動科学と社会科学の根拠に基づく原則とケーススタディに従っています。
6 つの行動のてこは次のとおりです。
- 社会的影響力
- 情報
- 感情的アピール
- ルールと規制
- 選択肢のアーキテクチャ
- 物質的なインセンティブ
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何十年もの間、従来の持続可能性ツールキットは、情報、ルールと規制、物質的なインセンティブという 3 つの一般的なてこで構成されてきました。このてこは効果的です。ただし、情報は必ずしもアクションにつながるとは限りません。インセンティブは裏目に出たり、誤ったメッセージを送ることになったりすることがあります。また、規制は施行するのが難しい場合もあります。行動科学の研究によると、行動変容を促進するための強力な知見が他にもあります。たとえば、人の意思決定は、自分の感情 (感情的アピール)、他の人の行動と他の人から自分に期待されている行動 (社会的影響力)、意思決定のコンテキストの構造 (選択肢のアーキテクチャ) に基づいて行われます。
てこを追加して、行動変容ツールキットを拡張することで、人々のあらゆる行動動機を反映したソリューションを設計できます。次の単元では、今日から使用できる行動変容設計のベストプラクティスを学習します。