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人工知能について知る

学習の目的

この単元を完了すると、次のことができるようになります。

  • AI による生活や仕事への影響を検討する。
  • 倫理的な AI とセキュアな AI を定義する。

意外と古い AI の起源

人工知能 (AI) に対する探求は今に始まったことではなく、その概念的な起源は古代文明にまで遡ります。私たちが AI という用語やテクノロジーを用いるようになるはるか前から、私たちの祖先は人工生命体という構想を抱いていました。実際、現在「オートマタ」と称される、自律的にタスクを実行するよう設計された初期の機械装置を試作していました。

たとえば、古代ギリシャでは、発明の神ヘーパイストスがクレタ島を侵略者から守るために青銅の巨人タロスを創り出したという神話に、2,700 年近く前の人々は魅了されていました。古代中国では、職人が機械仕掛けの召使や、お茶をいれるといった複雑な動作をする高度なオートマタを制作していました。『マハーバーラタ』のような古代インドの叙事詩では、自動式の戦車や武器について説明されており、ある種の自動化であったことが示唆されます。アフリカのさまざまな伝統にも、護符やお守りという形でオートマタや機械仕掛けが出現します。

こうした神話上の構造物や太古の装置は、人間のニーズに応えたり、防衛機能を果たしたりする今日のロボット工学や自動化の概念にも通じる形で機能していました。このような古代の記録から、自律的な実体による倫理面やセキュリティ面への影響について考えさせられると同時に、AI のとてつもない潜在性とそれに伴う倫理面やセキュリティ面の複雑さをめぐる昨今の議論が予見されていたように感じられます。

日常生活における AI の影響力

神話から現代へと時を移した今、私たちは人間の直感、推論、論拠を模倣する人工知能という高度なシステムに直面しています。産業や日常生活を刷新する潜在性を秘めた AI は適応力が高く、古代の神話や簡易な機械仕掛けから現代生活の一部へと進化し、その強力な機能を発揮して普及し続けています。

たとえば、あなた独自の睡眠パターンに基づいてアラートを調整する目覚まし時計で起こされるとします。起きた瞬間に顔をスキャンすればスマートフォンのロックが解除され、その日の天気予報をすぐにチェックできます。朝食の準備をしている間、あなたの好きな曲を把握している音声アシスタントがおすすめのプレイリストを再生します。外に出た瞬間にスマートホームシステムが起動し、不在時の照明や温度を調節して省エネを最適化します。

自動車で通勤中は、高度なナビゲーションシステムが最短ルートをインテリジェントに選択し、渋滞している場所を迂回します。昼食時になると、お気に入りのフードデリバリーアプリケーションが、過去の注文に基づいてあなたが好きそうなメニューを提案してくれます。仕事を終えて帰宅すると、数回の音声コマンドで自宅の照明や温度を調節できます。夜になり、ストリーミングサービスのおすすめシステムが提案した映画を観ながらリラックスしていると、デバイスが夕食を注文してくれます。

上記は、AI が私たちの日課にシームレスに溶け込み、生産性や判断を向上させる AI の影響力が浸透した生活の一例を示しています。実際、その影響力ははるか広範に及んでいます。次は、AI が私たちの生活や仕事にどのくらい浸透しているか検討します。 

AI の幅広い用途

地域に根ざした事業からグローバル企業まで、AI によってさまざまな業界の業務のあり方が刷新されています。では、個人の生活上や仕事上の場面で AI に接する可能性がある具体的な用途を見てみましょう。

業種 

生活上の用途 

仕事上の用途 

ヘルスケア

AI を活用した画像処理で医師が異常を正確に特定できる MRI 検査を受ける。

AI 駆動型のシミュレーションを使用して、各種の薬剤が生体にどのように作用するか予測し、医薬品の開発を加速する。

金融 

クレジットカードのセキュリティ強化策として、AI がカード所有者の消費パターンを学習し、普段と異なる取引があった場合に旧式のルールベースの警告システムよりも正確かつ迅速にフラグを立てる。

AI ツールを活用して、過去のデータから市場動向を予測し、投資の判断材料にする。

製造業 

製造過程で AI 駆動の品質管理チェックを受けた商品を購入する。

機械が故障する前にアラートを発する AI 駆動の予測メンテナンスツールを導入して、長期のダウンタイムを防ぐ。

小売業 

各自のオンラインショッピングの習慣に基づく AI 駆動の購入のおすすめを表示する。

AI 分析で在庫数を最適化し、人気商品の在庫切れを防ぐ一方で、廃品や過剰在庫を減少させる。

輸送 

Waze や Google Maps など、リアルタイムの交通情報を示し、AI によって最適化されたルートを提案するアプリケーションを使用する。

AI を使って配送トラックの最適なルートを予測し、燃料使用量や時間を最適化する。

教育 

過去の学習パターンや履歴に基づいて、AI が履修科目を提案する学習プラットフォームを使用する。

課題を自動採点する AI ツールを利用して、教えることにより多くの時間を割けるようにする。

エンターテイメント 

ストリーミングプラットフォームで、AI 駆動のアルゴリズムが推奨した映画や音楽を視聴する。

映画やテレビ番組の制作で、AI 駆動のソフトウェアを使って本物そっくりの映像や合成音声、顔写真を作り出す。

スポーツ 

解説者が AI を活用したツールでプレーを分析して結果を予測するのを聞きながら、試合を観戦する。

AI 搭載のウェアラブルを使用して、選手の健康状態やパフォーマンスをリアルタイムに観察し、その情報に基づいて試合の進め方を調整する。

法執行機関 

盗難車両のナンバープレートを自動スキャンする。

AI ツールで監視カメラの膨大な映像をすばやく処理して分析し、手がかりをつかむ。

サイバーセキュリティ 

AI を活用した異常検知機能を搭載し、不審な行動をユーザーに警告するセキュリティアプリケーションを使用する。

AI ベースの脅威 (フィッシング、ディープフェイクなど) の防御、異常の検知、タスクの自動化、大規模なインシデントの速やかな特定に AI モデルを活用して、応答時間を短縮する。

上記の例からおわかりのとおり、AI は私たちの生活や仕事のさまざまな側面にシームレスに溶け込み、イノベーションを促進し、今まで不可能であったことを可能にしています。

AI の倫理面やセキュリティ面への影響

AI の利便性や効率性に魅了されがちですが、ここで極めて重要なことは、このテクノロジーの「インテリジェンス」を支える倫理面とセキュリティ面の基本原則を見過ごさないようにすることです。倫理面の原則では、公平性、透明性、信頼性が重視され、こうしたツールに一切のバイアスがなく、プライバシーを尊重することが定められています。セキュリティ面の原則では、保護や防御、つまり、データや個人の安全を損なうおそれがある脅威から守ることが重視されます。こうした原則は、AI をスマートで、信用するに値し、信頼できるものにするための支柱です。

AI のアルゴリズムの意思決定プロセスは不明瞭で解釈し難いことから「ブラックボックス」と称されていますが、この不透明な性質に対処するために、倫理面とセキュリティ面の支柱を基盤とする国際的な取り組みが展開されています。この最優先事項がアルゴリズムの説明可能性で、AI の意思決定を透明で理解可能なものにすることを目指しています。説明責任、セキュリティインシデントの特定、倫理的な配慮、法令の遵守など、AI がさまざまな責務を果たすためにはこうした取り組みが極めて重要です。

AI を倫理やセキュリティの国際基準に適合させ、透明性と説明可能性の要素を組み込む広大な活動の一環として、以下のようなイニシアチブが推進されています。

  • 世界経済フォーラムの AI ガバナンスアライアンス: 企業、政府、市民社会が参画して、責任ある AI ガバナンスを推進する官民協働のプラットフォーム
  • Alliance4AI: アフリカにおける AI 関連のコミュニティの創設を目的とするネットワークで、倫理的な配慮をはじめとするガイドラインや政策の制定で協力を図る。
  • EU 人工知能法: 信頼のおける AI の「単一市場」の実現を目指す欧州連合の法案
  • OECD AI: 透明性、公平性、AI システムの堅牢性や安全性の確保に焦点を当てたガイドラインを策定するイニシアチブ

国際社会はこうした多様で多面的なアプローチを通して、AI が強力なツールでありながら、公正で信頼できる協力者となるよう懸命に取り組んでいます。

ファイヤーウォール、シールド、ロックといったサイバーセキュリティのシンボルに囲まれ、天秤を手にしているインテリジェントなマシン

では、現在使用している可能性がある各種の AI ツールと、その使用時の倫理面やセキュリティ面への潜在的な影響を見てみましょう。

AI ツールの種類 

倫理面への影響 

セキュリティ面への影響 

チャットボット

トレーニングに使用されるデータにバイアスがかかっている可能性があり、生成されるコンテンツにもバイアスがかかるおそれがある。

機密データが適切に保護されていなければ、チャットボットが誤ってデータを保存したり漏らしたりする可能性がある。

ライティングアシスタント

コンテンツの提案で特定のトピックが他のトピックより優先され、公平性やバイアスが疑問視される可能性がある。

ユーザーが生成したコンテンツが暗号化されていなければ、データが漏洩するおそれがある。

バーチャルミーティングアシスタント

個人のカレンダーやスケジュールにアクセスするため、ユーザーのプライバシーが危惧される。

強力な暗号化を適用していなければ、ミーティングのデータや個人のスケジュールが侵害されるおそれがある。

トランスクリプト (文字起こし) サービス

トランスクリプトサービスの正確性が懸念されるほか、仕上がったデータが将来のモデルのトレーニングにどのように使用されるのかも危惧される。

音声データやトランスクリプトデータは、不正アクセスされないように安全に保管する必要がある。

クリエイティブライティングツール

クリエイティブの方向性が左右され、ユーザーが作成するコンテンツの独創性に影響を及ぼす可能性がある。

ユーザーが執筆した物語や詩を保護するためにデータの暗号化が不可欠となる。

画像生成

AI の画像生成がそのトレーニングデータの影響を受け、著作権や独創性の点で疑問が生じる可能性がある。アップロード機能によって同意やプライバシーの問題が生じる。

アップロードした写真や生成した画像が、特に適切に暗号化や保存されていない場合には、データの侵害や悪用の標的になるおそれがある。

AI コンパニオン

AI を話し相手とすることによる感情面や心理面への影響については、依然として議論が続けられている。

極めて個人的な内容を話す場合は、不正アクセスを防ぐための高度な暗号化が必要になる。

スマートサーモスタット

ユーザーの習慣や好みに関するデータが収集されるため、プライバシーの問題が持ち上がる。

システムが侵害されれば、不正侵入した人物に自宅の設定をコントロールされるおそれがある。

写真管理

顔認識やデータ分類では、同意やプライバシーに関する倫理的な問題が懸念される。

クラウドに個人の写真を大量に保存する場合、適切なセキュリティが適用されていないとデータが漏洩するリスクがある。

音楽ストリーミング

おすすめシステムでスポンサーや人気の高いコンテンツが優先され、おすすめの多様性や独立性が影響を受ける可能性がある。

悪用を防ぐために、個人の視聴パターンやプレイリストを暗号化する。

この表には、AI 駆動型ツールを操作する際に留意すべき倫理面やセキュリティ面の考慮事項がまとめられています。

AI が私たちの日常生活に溶け込みつつある中で、その利害が飛躍的に増大することは明らかです。AI はさまざまな分野で顕著なメリットをもたらしますが、倫理面やセキュリティ面への影響も看過できません。データのプライバシー、バイアス、サイバー戦争における悪用の可能性といった問題は現実的な懸念であり、AI のリリースや規制に対するバランスのとれた賢明なアプローチが求められます。

AI の脅威と防御に関する次のセクションでは、倫理面の理解から、AI が標的にも武器にもなり得る現実的なリスクの特定へと軸足を移します。こうした脅威を認識することは、AI の技術的な要件と倫理的な規範に即した効果的な防御を構築する第一歩になります。

リソース

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