AI プロジェクトを立ち上げる
学習の目的
この単元を完了すると、次のことができるようになります。
- AI プロジェクトの関係者、目標、テクニカルソリューションを特定する。
- AI プロジェクトのフェーズについて説明する。
- プロジェクトのタイムラインをスケジュールする。
始める前に
AI プロジェクトへの取り組みは会社にとって大きなマイルストーンになりますが、始める前に必ず「AI 計画」モジュールを修了してください。「AI 計画」モジュールでは、組織の AI ユースケースを特定し、AI ロードマップを作成して、適切なプロジェクトを選定します。
AI プロジェクトの準備をする
AI テクノロジーに慣れていない場合は特に、AI プロジェクトの複雑さに直面したときに怖じ気づいてしまうかもしれません。組織への AI プロジェクトの実装を担当することになった場合、プロジェクトの計画時に検討すべき点は、「このプロジェクトを成功に導くためには何ができるか?」ということです。
このモジュールでは、Coral Cloud Resorts の Salesforce システム管理者である Becca Cloudier が、データと AI を組み合わせた最初のプロジェクトの計画を立てるところを見ていきます。Coral Cloud は滞在型のリゾートで、ゲストの皆様にリラックスして楽しんでもらうことを目的としています。この組織は、チェックインプロセスのパーソナライズを維持したうえで効率化したいと考えています。つまり、リゾートのスタッフがお客様にきめ細かな対応をしつつ、チェックインデスクでお客様を長い間立たせたままにしないということです。
では、Becca が AI プロジェクトをどのように立ち上げるのか見てみましょう。Becca はまず関係者を特定し、プロジェクトの目標を定義して、テクニカルソリューションを選びます。
プロジェクトの関係者を特定する
最初に、プロジェクトの関係者を特定します。プロジェクトに関心がある人々や、プロジェクトに影響やインパクトを及ぼす人々が該当します。誰が関係者に該当するかを認識し、早い段階からプロジェクトに参加してもらえば、プロジェクトが全員の目標に沿ったものになり、特定の領域や対象者がプロジェクトの範疇外になることがありません。
プロジェクトの関係者は通常、全社規模の AI を扱う戦略的関係者とは異なりますが、多少重複していることもあります。プロジェクトの関係者はその特定の AI プロジェクトの実装を担当するのに対し、戦略的関係者は全社的な AI 計画を管理します。戦略的関係者がプロジェクトを監督する場合でも、プロジェクトの説明責任を果たすのは個々のプロジェクトチームのリードです。
Becca は実装に着手する前に、特定の人々にプロジェクトに参加してもらう必要があります。
- エンドユーザーのピープルマネージャー: AI プロジェクトの影響を受けるエンドユーザーの統括者です。Becca のプロジェクトの場合は、Coral Cloud のカスタマーサクセスマネージャーである Josef Rose です。
- 担当役員: リソースを割り当て、AI プロジェクトの優先順位を決定します。Becca のプロジェクトの場合は、Coral Cloud のカスタマーエクスペリエンス VP です。
- セキュリティとリーガル: この関係者は Becca の AI プロジェクトが倫理的かつ安全で、顧客データを合法的に使用していることを確認します。
- テクニカルチーム: AI プロジェクトを構築します。この例では、Becca が自分でプロジェクトを構築するつもりです。
プロジェクトの開発期間にわたって関係者と定期的に連絡を取り合います。相手のニーズを理解し、フィードバックを収集して、プロジェクトに変更を加えます。
成功を構想する
次に、目標を定義してプロジェクトの成功を構想します。ここでは、「AI 計画」モジュールで選定したユースケースを引き続き取り上げます。SMART (Specific (具体的)、Measurable (測定可能)、Achievable (達成可能)、Relevant (関連性が高い)、Time-Bound (期限付き)) 目標の定義に取り組みます。
Becca はリーダーシップと協力して、次のような SMART 目標を定義します。
- チェックイン時間を 50% 短縮する。
- 顧客満足度をプロジェクトの開始前のレベルかそれ以上に維持する。
このステップを省略しないでください。適切なメトリクスと重要業績評価指標 (KPI) がなければ、プロジェクトの成功を測定できません。チェックインに要する時間が短くなれば顧客満足度が向上し、お客様がリゾートで費やす金額が増えることを Becca は認識しています。AI を収益の増大に結び付けることができれば、高い投資収益率を実証でき、将来の AI プロジェクトを推進する根拠になります。
技術要件を検討する
AI イニシアティブの開始時に極めて大切なことは、プロジェクトの技術要件を評価することです。以下の点を質問します。
- プロジェクトにはどの種類の AI が必要か? 予測 AI か生成 AI か、その両方か?
- このソリューションを他のシステムに統合する必要があるか?
- 標準ソリューションを使用してカスタマイズすることが可能か、自分で構築する必要があるか?
- 自分で構築することにする場合、組織内に適切なスキルを備えた人材がいるか?
- どのモデル、プログラミング言語、フレームワーク、ライブラリ、ツールを使用するつもりか?
- 正確性とスピード、複雑さとシンプルさ、イノベーションとコストなどのトレードオフのバランスをどのようにとるか?
プロジェクトを Salesforce で構築する場合は、組織の Data Cloud と Einstein 生成 AI を有効にする必要があります。
プロジェクトの技術要件のほか、データ要件も検討する必要があります。この点については、次の単元で説明します。
AI ソリューションを選ぶ
Coral Cloud Resorts ではすでにゲストのチェックインに Salesforce を使用しているため、Becca は現行のプロセスを調べ、AI を使ってエクスペリエンスを最適化する方法を特定します。
ゲストがホテルに到着するたびに、Coral Cloud のスタッフが手動でチェックインレコードを作成しています。さらにスタッフは、楽しいオプショナルツアーのおすすめを記載してパーソナライズしたウェルカムメールを手動で送信しています。このような心遣いによってゲストのエクスペリエンスが向上し、クロスセルのコンバージョン率が上昇します。ただし、こうしたきめ細やかな対応には時間がかかるため、Becca は AI を利用してプロセスをスピードアップし、AI 搭載の自動チェックインでウェルカムメールをトリガーすることにします。実装のタイムラインを短縮し、コストを抑え、AI ソリューションを Salesforce に簡単に統合するために、Becca はこの役目に適したツールとして Einstein 生成 AI を選択しました。
続いて、Einstein 生成 AI のヘルプポータルを見て回り、Salesforce の標準 AI 機能の中に自分のユースケースで使えるものがないか確認します。さらに、AI 機能を Data Cloud と連携させた場合にどのように活用できるか構想します。Einstein Copilot のフローを使用してアクションをトリガーできることを確認し、また、プロンプトビルダーでテンプレートに基づいてパーソナライズされたメールを生成できることがわかりました。
そこで、プロジェクトを 3 つの部分に分け、Data Cloud や AI のさまざまな機能を活用することにしました。Becca の計画は次のとおりです。
- Data Cloud のフローを使用して、最新の予約データを基に Guest Event (ゲストイベント) レコードを作成する。
- Einstein Copilot に会話型言語でフローの起動方法を指示する。たとえば、Sofia Rodriguez というゲストが到着したときに、スタッフが Einstein に「Sofia Rodriguez をチェックイン」と指示すれば、Einstein が残りの処理を行ってくれます。
- プロンプトビルダーを使用して、ゲストが以前に購入したオプショナルツアーに基づいてパーソナライズされたオプションを提案するウェルカムメールを生成する。
AI プロジェクトのフェーズ
Becca の AI プロジェクトでどのようなことが行われるのか見てみましょう。
計画: このモジュールでは計画フェーズについて学習します。
- AI で解決する問題と成功の測定方法を定義する。
- プロジェクトの技術要件とデータ要件を評価する。
- 問題を解決するための機能やカスタマイズを特定する。
- データを準備する。
- 信頼計画を立てる。
- 計画をプロジェクトの関係者と共有する。
構築: ソリューションを構築し、テストして改良します。
- ソリューションを設定、カスタマイズ、構築する。
- パイロットを実施してフィードバックを収集する。
- ソリューションを改良する。
立ち上げ: プロジェクトをエンドユーザーにデリバリーします。
- 組織に変更を通知する。
- トレーニングを実施する。
- メトリクスのベースライン測定を行う。
- エンドユーザー全員にロールアウトする。
- フィードバックを収集する。
- プロジェクトの成功を評価する。
プロジェクトを立ち上げた時点で自分の手を離れるわけではありません。プロジェクトの効果を維持するためには、積極的なメンテナンスが必要です。引き続きプロジェクトに関する定性的または定量的なフィードバックを取り付け、その内容を基にソリューションを更新します。
プロジェクトのタイムラインを決める
重要な詳細を確定した Becca は、最後にプロジェクトのタイムラインを設定します。ソリューションの複雑さに応じて、プロジェクトの所要時間は前後します。このサンプルのタイムラインは架空のもので、データの準備が完了するまでの時間は含まれていません。準備に要する時間は、データの品質、可用性、アクセス可能性に大きく左右されます。
フェーズ | 3 か月計画 (12 週間) | 6 か月計画 (24 週間) |
---|---|---|
計画 | 2 週間 | 4 週間 |
構築 | 9 週間 (テストに 1 週間、パイロットに 2 週間) | 18 週間 (テストに 2 週間、パイロットに 4 週間) |
立ち上げ | 1 週間 | 2 週間 |
まとめ
これで、プロジェクトの関係者、目標、テクニカルソリューションを特定して、AI プロジェクトを立ち上げる方法がわかりました。また、プロジェクトのフェーズとタイムラインについても理解しました。次の単元では、データを準備し、データ品質の評価基準を共有する方法を学習します。
リソース
- 記事: Examples of SMART Business Goals (SMART ビジネス目標の例)
- 記事: Requirements for an AI Project (AI プロジェクトの要件)
- 記事: Navigating the AI Implementation Journey: Buy or Build? (AI 実装ジャーニーを進行する: 購入するか構築するか?)
- テンプレート: Generative AI Rollout Plan (生成 AI ロールアウト計画)
- Salesforce ヘルプ: Einstein 生成 AI
- Salesforce ヘルプ:Agentforce: エージェントおよび Copilot
- Salesforce ヘルプ: プロンプトビルダー
- Salesforce ヘルプ: Flow Builder
- Salesforce ヘルプ: Data Cloud について